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<ナンバーW杯傑作選/'98年7月掲載> ベンゲル、日本の戦いを振り返る。 ~フランスW杯の日本代表戦を分析~
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph bySports Graphic Number
posted2010/05/14 10:30
日本にいた時は、試合中の選手を「怒らせると怖いから走るんだ」と奮い立たせるだけの威厳があった名将。
日本を離れた後も、愛情を絶やさず見守ってきた。
そしてやってきた彼らの脱皮の瞬間を、ベンゲルは見届けに現われた。
大舞台に立った青い戦士たちは、彼の眼にどう映ったのだろうか。
――まず3試合を通しての日本の印象から聞かせてください。
「日本はよくやった。ジャマイカ戦がああいう結果に終わったものの、持てる力のほぼすべてを出し尽くした。そして試合ごとに進歩していった。世界の人々に、日本サッカーのいいイメージを与えたという意味で、日本にとってワールドカップは成功だったといえるだろう」
――具体的にはどんなイメージでしょうか?
「よく組織されたスピーディなサッカーを日本は見せた。ヨーロッパの人間にとっては、それは新鮮な驚きだった。私は以前から、Jリーグはヨーロッパの中位程度の実力はあると言っていたが、その言葉が証明されて嬉しい」
――大会前から、あなたは日本を高く評価していましたが?
「ああ、日本の力は私が一番よく知っているからね。アルゼンチンやクロアチアを相手にしても、かなりやれるだろうと言っていたが、実際にその通りだった」
「1失点というのは、ディフェンスが完璧だった証拠だ」
――日本の何がよかったのでしょうか?
「ディフェンスだ。アルゼンチンとクロアチアに1失点ずつというのは、ディフェンスが完璧だった証拠だ。オルテガやバティストゥータ、スーケルは並の選手ではない。川口は最初の2試合は非常に安定していたし、井原と秋田、中西のセンターバックも試合を通じて進歩していった」
――では、3試合をそれぞれ振り返ってください。まずアルゼンチン戦ですが?
「優勝候補を相手に、前半は戸惑いとミスが目立った。バティストゥータのゴールが、それを象徴していた。日本はボールを奪っても、すぐに攻撃に移れなかったので、ディフェンスのミスをリカバーできなかった。バティストゥータのようなストライカーに、ゴール25m前でボールを渡してしまっては、カバーの余地はない」
――前半は慎重だった日本も、後半は多少積極的になりました。
「フィジカルでアルゼンチンを上回ったのが大きい。特に終盤は、中盤を支配してチャンスを何度も作った。ただしペナルティエリアに入るあたりから攻撃に迫力を欠き、得点にまでは至らなかった。またセットプレーにも工夫がなかった。コーナーキックが3本続いたとき、アルゼンチンのディフェンスはパニック状態に陥っていた。そこを突けなかったのが日本にとっては痛かった」
――1対0という結果は、肯定的に捉えていいのでしょうか?
「半分勝ちに等しいといえる。内容的にはアルゼンチンの順当勝ちではあったが、日本も戦えるという手応えを掴んだ。今後の戦いに向けて、いいイメージを残すことが出来たのが大きい」