自転車ツーキニストのTOKYOルート24BACK NUMBER
京急線とともに旧東海道を下りつつ、
古い“地名”に思いを馳せてみた。
text by
疋田智Satoshi Hikita
photograph bySatoshi Hikita
posted2012/05/30 06:00
江戸における交通の要所だった品川宿。最近では羽田空港の国際化にともなって、世界に開かれた東京の玄関口としての機能も持つようになり、改めて活気づいてきています。
現在の鈴ヶ森はどうなっているかというと……。
ということで、その旧東海道をさらにまっすぐに南下すると、左手に「鈴ヶ森中学校」があって(おお!)、その先が、鈴ヶ森刑場跡である。
街道の合流地点の三角州のようなところに、石碑が林立している。「石碑が林立」というのもヘンな言い方だが、本当にそうなのだ。
ちょっとあげてみるだけで「都旧跡・鈴ヶ森跡」「南無妙法蓮華経碑」「鈴ヶ森刑場受刑者の墓」「無縁供養塔」「しながわ百景・鈴ヶ森刑場と大経寺」「六十六部供養塔(六十六部は、一国一カ所の霊場に法華経を納めていく山伏と良く似た宗教者を指す)」「火炎台」「磔台」……。と、これらが皆、石碑、またはそれに準ずるものだ。実はこれでも半数程度。文字が読めない石碑がまだまだあったりする。
それだけ供養したい人が多かったのか、ある意味の「社会的後ろめたさ」なのか、とりあえず鈴ヶ森は、そういう場所だ。
なかでもリアルなのが「火炎台」と「磔台」である。
それぞれ足下にデカい石が据えられている。
火炎台には「この石の穴に鉄柱を立て、その鉄柱に罪人を縛り付け、その下で薪を燃やして、生きたまま火あぶりにした」というような解説がある。ここで刑死した代表格が、八百屋お七だ。
磔台も同じ。石の穴に角柱を立て、罪人を縛り付け、刺し殺した。こちらの代表格は、丸橋忠弥。慶安の変の際、由井正雪とともに幕府転覆を狙ったとされる槍術家。
この鈴ヶ森で処刑された人数の合計は、220年の中で10万人とも20万人ともいわれる。が、はっきりしたことは分からないそうだ。
このあたり旧東海道と新東海道がぶつかるターミナルとなるんだけど、周囲の風景は普通に「ザ・都会の一角」だ。その中に、ここだけこんもりと緑の刑場跡がある。初夏の風に吹かれながら、なんだか爽やかな風景にすら見える。
これが北の小塚原と違うところで、あの南千住駅近くの刑場跡は、ものすごくおどろおどろしいからね。かつての墓石がゴロゴロ転がっていることもあり、現代でも「何かいる!」感が強い。
一言でいうなら、小塚原は暗いのに、鈴ヶ森は明るい。
なんだろう、このあたりはやはり城北と城南の地域差というか、テイストの差なんだろうか。
どうも納得いかない、「大田区」という区名の由来とは?
さて、旧東海道は、鈴ヶ森で国道15号線に飲み込まれていく。左手に「しながわ水族館」などを見つつ、どんどこ南下だ。
やがて、区境を越える。品川から大田区だ。目の前の案内標識にも「←大森 ↓羽田」なんてのが出てくる。羽田といえば羽田空港だが、大田区の敷地の5分の1を占めるというこの大空港、よくぞ地名が“羽”田だったと思う。
大昔からこの名前。語源はハッキリしないんだけど、河口にある田圃のことを「羽田」と呼ぶことがあったことからついたというのが有力らしい。
「地名は、言葉の化石」とは、よく言われることだが、羽田とは別に「チョンマゲ時代、ここに何があったか」がよく分かる地名が続くのが、この京急線沿いだろう。
先述の「新馬場」「青物横丁」などは代表的な例だが、後述する「梅屋敷」など味わいのある地名も多い。しかしながら、ついでに言うと、京急線「そのまんま、身も蓋もない」という駅名も多いのだ。
「産業道路駅」「県立大学駅」「大鳥居駅」など、単に目の前にそれがあったから付けただけ、という風に聞こえてしまう。
もうひとつ「大田区」という地名、なにゆえ大田区なのか、ご存じだろうか。これ実は、この区内にある2つのメジャー街、大森と蒲田の文字を1つずつとって命名されたものなのだ。だけど、うーん、そうだなぁ。なにかヒジョーに違和感を感じないだろうか。
違和感の理由は、複数文字列には必ず「主役の文字」というのがあると思うことだ。
何のことかというと、たとえば私の苗字は「疋田(ヒキタ)」というんだけど、主役の文字はどうしたって「疋」の方だろう。「田」が脇役。ニックネームがつく場合にだって「ヒキちゃん」とは言われるが「ターちゃん」とは言われない。当然だね。
で、大森と蒲田だ。
誰が見ても、主役の文字は「森」と「蒲」である。だから「森蒲区」、または「蒲森区」なら、分かるのだ。聞くからに「なるほど、かつては大森と蒲田ね」と思う。ところが現実は「大田区」である。
あえて無味乾燥な文字を選んでしまった不思議。この名前から大森と蒲田を想起できる人は少ないだろう。とまあ、大田区に来るたびに、毎度毎度不思議に思ってしまうのだ。