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欧州に移ってF1は第2ラウンドへ。
新興3チームがノーポイントの裏事情。
text by
西山平夫Hirao Nishiyama
photograph byHiroshi Kaneko
posted2010/05/08 08:00
イギリス人のコーリン・チャップマンが設立したこの名門チームは、チームを所有する会社がマレーシア企業なのでマレーシアのチームとして登録されている
レギュレーションの大幅変更が激しい格差を生み出した。
それにしてもなぜこうした悲惨な状況が生まれたのか?
その理由のひとつにチームの体力不足が挙げられる。スタッフ、資金、施設、開発体制等々リソースのどれを取り上げても、新興チームがノウハウの蓄積がある名門チームに敵うわけがない。ここ数年で台頭急なレッドブルにしても、その前身はジャガーであり、さらにその前はスチュワートであり、決してポッと出のチームではなかった。
さらに掘り下げてみると、新興チームがデビューした今季はレギュレーションが大きく変わったことが予想以上に影響しているということが分かる。給油禁止となったために燃料タンク容量がおよそ倍以上になり、それに伴いホイールベースが激変。つまり新興チームがマシン造りで昨年までの先輩マシンをコピーしようとしても、その“お手本”が無かったわけだ。これは痛い。
そもそもレースを面白くするためにはレギュレーションを固定化して、長期にわたって変えないに限るのである。先に述べた“コピーの法則”によって下位チームのマシンが年々トップチームのマシンとの差を詰めていき、天候の急変といった予期せぬ出来事が発生すると下位チームが大物を食う状況が現れやすくなる。昨年大活躍したフォースインディアなどがそのいい例だろう。コピーの連続がやがてオリジナリティを獲得するに至ることは、韓国や中国の一般乗用車の急激な進化を見ても立証されている。仮にマシン・レギュレーションが昨年と同じままだったら、トップチームと下位チームの格差がここまで広がることはなかったはずなのだ。
ノーポイントの3チームが抱える共通の問題とは?
さらにこの新興3チームには共通点がある。
いずれも4年ぶりにF1シーンに復帰したコスワース・エンジン・ユーザーであるということである。コスワースは名門ながら、F1から離れていた4年間のブランクはさすがに大きく、他銘柄に比してパワー不足であるばかりか燃費が良くないという噂が出ている。
実際、同じコスワースを使うウイリアムズの決勝が予選ほど良くないのはこの燃費問題で足を引っ張られているからだというのは、グランプリの現場では公然の秘密となっている。燃費が悪ければそれだけ多くのガソリンを積まざるをえず、マシンの運動性能に大きな支障をきたすことはいうまでもない。ヴァージンなどは、燃料タンクの容量不足で完走もおぼつかなくなりそうな騒ぎまで起こしている始末だ。
以上、(1)リソース不足、(2)レギュレーションの変化、(3)コスワース・エンジンという要素が新興3チームの躍進をさまたげる三重苦となっているのだが、これを乗り越えてポイントを得るのは、欧州ラウンドに入ってもよほどの奇跡が起こらない限り無理と見る。だいいちメカニック達からして寄せ集め部隊で統率が取れておらず、そういう点ではかつてのスーパーアグリの爪の垢でも煎じて服ませてやりたいくらいなのだから。