詳説日本野球研究BACK NUMBER
未来の落合博満や野茂英雄のため、
プロ野球界は育成システムの強化を!
text by
小関順二Junji Koseki
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2012/05/17 10:30
昨年まで和田毅がつけていたホークスのエースナンバー「21」を背負う千賀滉大。2度の1軍登板は自滅の形となったが、19歳右腕の可能性は首脳陣も認めている。
プロと社会人の垣根を取り払う、レンタル制度の検討を。
私案だが、社会人野球とプロ野球の間にある垣根はもっと低くしたほうがいいと思っている。野球選手には稀に「超」の字がつくほど遅咲きの選手がいる。現在なら、三橋尚文投手(JFE東日本・32歳)がその典型で、今年の3月12日に行われたスポニチ大会、JR東日本東北戦ではノーヒットノーランを達成している。
ストレートはゆうに150キロを超え、コントロールが安定し、変化球のキレ味も抜群。しかし、32歳という年齢を考えると、三橋がドラフトで指名されるのはかなり困難である。三橋がドラフトで指名されるには、プロ野球の一軍で高い確率で戦力になると信じられることが重要である。そのためには、アマチュアの身分でもプロの試合に出場できる、“レンタル”制度を立ち上げればいい。
プロ野球のシーズン中、二軍から一軍に選手を昇格するように、社会人の選手を一軍の試合に出場できるようにすれば、その選手の力量は容易に判断できる。社会人野球がチーム数を減らし、少ないチームに好素材の選手が満杯状態に詰め込まれているなら、実力上位の選手がプロに入れるように環境を整備するのは、これまで数多くの恩恵を受けてきたプロ野球のなすべきことである。レンタル制度はそういう需要に応えることができる。
なお、この話に独立リーグを加えていないのは、同リーグに開かれているプロ入りの門戸が、育成ドラフトによってかなり広くなっているからだ。反対に社会人野球は、統括する日本野球連盟が「社会人選手を育成ドラフトで指名するのはNO!」と昨年プロ側に通告したため、現在は同連盟傘下の選手を育成ドラフトで指名することができない。
「本人とチームの監督が承認すれば育成ドラフトで指名してもいい」というのが知り合いのスカウト氏の意見で、私も異論はない。これにはセカンドキャリアなど様々な問題が絡んできて簡単にはいかない話だが、見直しを是非検討してもらいたい。
未知の才能を発掘するためのシステム整備が必要だ。
これまで散々、野球界の構造改革の私案を提案したが、目利きのスカウトがいればすべて解決する話だと、言う人がいるかもしれない。三橋が活躍するしないを確実に判断できれば、レンタル制度なんて面倒なことを引っ張り出す必要はないし、育成ドラフトだって必要ない。高い確率で活躍できる選手を毎年3、4人獲得すれば、支配下登録選手だって60人で大丈夫だ、と。
『巨魁』の著者、清武氏は同書の中で'08年の新人王、育成ドラフト出身の山口鉄也がここまで伸びることを予期していた者はいるか、スカウト会議の最中に質問したことがあると書いている。
山下哲治スカウト部長はそれに対して「スカウトの名誉のためにも申し上げますが、彼の素質をわが方も含め、だれも見抜けなかったということですよ」と答えている。
清武氏は「若者の可能性、飛躍的成長はどんな目利きにも予測できないということだ」と書き、目利きが予測できないなら制度で補うしかないと、育成システムを立ち上げる必要性を説くのである。こういう考え方こそ、今のプロ野球関係者は持つべきである。