プレミアリーグの時間BACK NUMBER
チェルシー優勝への原動力、
フローラン・マルダの「覚醒」。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byAction Images/AFLO
posted2010/04/16 10:30
ウェストハム戦でゴールを決め、お得意のポーズで喜ぶマルダ。得点だけでなく左サイドでのドリブルやクロスでもチームに貢献する
自信とモチベーションを回復し、周囲の信頼をも取り戻す。
昨シーズン終盤、マルダは、システムとプレースタイルをモウリーニョ時代に戻したフース・ヒディンク暫定監督の下でリズムに乗りかけたが、カルロ・アンチェロッティの監督就任で再びブレーキが掛かると思われた。新監督が採用を決めたダイアモンド型の中盤にウィンガーの出番はないと思われたからだ。事実、開幕当初にはトップ下で起用されたこともあったがインパクトは弱かった。
だが、シーズンの折り返し地点を過ぎた辺りで状況が変わり始める。
まずは、完全に機能していたとは言えなかったダイアモンドの自然消滅。そして、サロモン・カルーのアフリカ選手権出場やユーリ・ジリコフの故障による左ウィングの競争率低下。結果として、マルダが切望していた先発出場の機会が増えることになった。
CLで実現したモウリーニョ率いるインテルとの大一番にも、敗れはしたが、第1レグでは急造左SBとして、第2レグでは唯一気を吐いた攻撃陣として先発フル出場。「周囲の信頼を得たと実感できるんだ」と語るようになったマルダの自信は、持ち前の突破力に加え、かつては見られなかった強さとなってプレーにも表れている。プレミアでのビッグゲームとなったマンUとの決戦でアシストを記録したプレーが、その代表例だ。前半20分、マルダは力ずくでボールを奪い取ってボックス内に進入すると、敵のボディチェックを跳ね除けてクロスを放ち、ゴールを演出した。以前のマルダであれば、あっさり倒れてFKかPKの判定を期待するのが関の山だったに違いない。
“DJ”役でチームを盛り上げる、期待通りの“ウィンガー”。
移籍3年目にして、ようやく真価を発揮し始めたマルダは、年明け後の試合だけで、チェルシーでの自己ベストに並ぶ9得点をあげている。左の手の平を大きく広げ、右手で横向きのVサインを作るゴール・セレブレーションは、すっかりお馴染みになった。カリブ系の血を引くマルダは、1月に大地震に襲われたハイチへのサポートに力を入れている。両手を使ったサインは、同国出身のヒップホップ・アーティスト、ワイクリフ・ジョンが設立した救済基金のシンボルマークを真似たものだ。
以前からヒップホップ好きとして知られるマルダは、控え室のBGM選択も任されている。チェルシーの“DJ”は言う。
「べつに誰かに頼まれたわけじゃない。誰が選んだっていいんだけど、自分ほど音楽にこだわっているチームメイトがいないんだよね。僕は、朝起きて、練習場やスタジアムに向かう段階から、気分を盛り上げるための音楽が必要なんだ。それに、流れる音楽によって控え室のムードだって変わってくる」
プレミアのタイトルレースもいよいよ大詰め。チェルシーは、期待外れの“ウィンジャー”から、期待通りの“ウィンガー”へと変貌を遂げたマルダが繰り出すビートに乗ってラストスパートを試みる。