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木村沙織のエースとしての自覚が、
W杯で全日本女子を「ひとつ」に。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAFLO
posted2011/12/06 10:30
最終日に強豪アメリカを破り、主将の荒木絵里香(左)と抱き合う木村。日本は4位に終わったが、木村が数々の窮地を救い、最後まで五輪へ希望を捨てなかった
11月18日、バレーボールのワールドカップ女子大会が閉幕した。
全日本は惜しくも4位にとどまり、この大会の3位以内に与えられることになっていたロンドン五輪の出場権を獲得することはできなかった。一方で、世界2強といわれるブラジル、アメリカを破るなどの成果もあげることができた。
そして若い選手の台頭も見られた今大会だったが、それとともに、印象的だったのが木村沙織だった。この数年、中心選手の一人として活躍してきた木村だが、この大会ではひとつ異なる姿を見せた。
それは、エースの自覚と言えるかもしれない。
なによりも、試合中の姿勢にそれがうかがえる。象徴的だったのは、0-3と完敗したセルビア戦だ。劣勢に立たされ、沈みがちなチームにあって、誰よりも周囲に向けて、言葉を発して雰囲気を盛り上げようとしていたのだ。
木村は、昨年あたりから、コミュニケーションやチームの雰囲気について触れる発言が増えてきた。チームのミーティングでも、主体的に話すようになり、大会を前に、若い選手たちを激励したという。
若手を引っ張り、チームをひとつにまとめる立場に。
ワールドカップ開幕を前にした記者会見でもこう語っている。
「チームを引っ張っていけるように頑張っていきたいです」
こうした自覚が、試合中あるいは試合外においても姿勢に現れているのだ。
変化の理由は、チームでの立ち位置にある。2003年に高校生にして全日本に選ばれた木村は、チーム内では若い世代であることが常だった。だからか、主軸となりつつも、どこかおとなしいたたずまいで、どこか、プレーヤーとしての立場とは釣り合わない位置にいた。
だが、年を経て、木村もチームの中堅どころとなってきた。若い選手が増えたことで、自分が引っ張る側にまわらなければならないことに気づいた。数々の試合の中で、チームとしてまとまることの大切さも経験してきた。
実は木村は、今夏での国際大会での出来が示すように、不調に苦しんだ時期もあった。以前の木村だったら、自分の立て直しに終始したかもしれない。
それでも、「自分のことばかりじゃなく、チームを引っ張っていかなければいけない」「チームがひとつになっていなければ世界と戦えない」と口にし、実践するようになったところにも、木村の自覚がうかがえる。