球道雑記BACK NUMBER
怒涛の追い上げも届かず……。
埼玉西武がシーズン終盤戦に見た夢。
text by

永田遼太郎Ryotaro Nagata
photograph byHideki Sugiyama
posted2011/11/11 10:30

今季開幕前から右肘の痛みに悩まされていたという涌井。5月時点で既に分かっていたという肘の遊離軟骨だが、このオフの手術で除去することが決定している
キャプテン中島裕之が醸した、勝利への執念。
今年の西武はシーズン後半、急激に変わった。
一時は借金が15まで広がり最下位にまで落ち込んだが、9月~10月と信じられないような快進撃を見せて、CSへ進出した。
キーになったのは間違いなくキャプテンの中島裕之の存在だ。
口下手だが、グラウンドで見せるアグレッシブな姿勢は常にチームを鼓舞し、ベテランも若手も、選手もスタッフも、そしてスタンドのファンも自然とそれに乗せられていった。
印象的だったのは最終戦前日の10月17日、QVCマリンフィールドでの出来事だった。
2-2の同点で迎えた延長10回裏、1死走者なしの場面で千葉ロッテ・岡田幸文が三振に倒れると、キャッチャーの星孝典はいつものようにサードの中村剛也へボール回しを始めた。
ボールを受けた中村はチラリとショートの中島を見たが……中島はすぐにピッチャーへボールを戻すように中村へ指示を出していた。
この時点で試合時間は3時間20分を経過。今季は節電に配慮した特別ルールにより3時間30分を過ぎての延長は行われないように設定されている。この試合、西武は勝っても引き分けても、翌日のゲームでオリックスが敗れない限りCS進出は叶わないという状況だった。
それでも選手たちは引き分けではなく、あくまでも勝ちにこだわった。早くこのイニングを終わらせて勝ち越し点をあげるべく次のイニングへ、先に進もうとしていたのだ。
平尾博嗣、銀仁朗、そして涌井秀章の流した涙。
終盤戦の西武は常にがけっぷち、首の皮一枚のところで戦っていた。
ギリギリの戦いが続いたせいか、今年は選手たちが感情までを露にするシーンが多く見られた。そんな選手たちの“涙”はこれまでのチームイメージを一変させ、チームをひとつにまとめていく要因にもなっていた。
たとえば8月10日のお立ち台で18年目のベテラン平尾博嗣が見せた涙がそうだった。
「僕が打っていれば勝っていた試合があったので、申し訳ない気持ちでいっぱいでした」
声を震わせる平尾の姿に、お立ち台の隣にいた栗山巧も今にももらい泣きをしそうになっていた。
10月8日の札幌では試合終盤の送りバントをミスした銀仁朗が試合後に悔し涙を流していた。
そしてCSファイナルステージ第3戦。
「今年1番のピッチング」と渡辺監督が称したエース涌井秀章が延長10回2死、あと1球のところで同点打を浴び、涙を浮かべながらマウンドを降りた。直後、野手全員が奮起し、なんとか勝ち越してソフトバンクに一矢を報いようと必死になっているのが、手に取るように分かった。