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投てきと跳躍種目の観戦のコツって?
“理系君”になって世界陸上を観戦。 

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生島淳

生島淳Jun Ikushima

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posted2011/09/06 10:30

投てきと跳躍種目の観戦のコツって?“理系君”になって世界陸上を観戦。<Number Web> photograph by KYODO

世界を圧倒する記録で、今大会参加日本人選手の中で唯一金メダルを獲得した室伏広治。ビクトリーランでは、被災地の門脇中学校(石巻市)で渡された寄せ書きの日の丸を掲げ歩いた

マラソンを自動車に例えると見えてくる日本人の弱点。

 大学で長距離の指導に当たっているコーチたちがよくいう。

「長距離の世界では心臓がエンジンです」

 世界陸上を見ると、ケニア、エチオピア勢のスプリント力に目を見張る。腕の振り、足の回転……なんだかシャシーも違う感じなのだ。

 エンジンとシャシー。現在の長距離界は両方が抜群に優れているアフリカ勢の独壇場だ。日本は苦戦を強いられている。男子マラソンで7位入賞した堀端宏行は大いに健闘したと思う。

 近ごろは長距離とはいっても駅伝の取材が多いのだが、日本の長距離界、特に箱根駅伝を重視する関東の学校は20キロを念頭にトレーニングメニューを組むから、スプリント力よりも持久力、つまりエンジンの性能をよくすることを重視している。箱根でスプリントを競う場面はほとんどないと言っていいからだ。

 この姿勢が、トラックでの国際競争力を削いでいるのかと思う。いい悪いの問題ではないが、現実的に箱根駅伝がビッグイベントになっているから世界の舞台では違いが際立ってしまう。ちなみに堀端は八代東高校から旭化成に入社し、箱根駅伝の経験はない。20キロという国際的に中途半端な強化ではなく、トラックか、マラソンかで育成されてきた選手だ。

これからの日本マラソン界に必要な“性能”とは?

 日本人選手で、エンジンもシャシーも抜群だった選手を思い出してみると、瀬古利彦まで遡らなければ行けないかもしれない。競技場に入ってからの戦慄のラストスパートはいまも記憶に新しい。

 これからの日本に必要なのは、「シャシーの性能を上げる」ことだろう。やれば、出来ると思うのだ。

 というわけで、学生時代にもっともっと物理を勉強しておけばよかったと思ったのでした。

 陸上競技は、深い。

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室伏広治
エレーナ・イシンバエワ
堀端宏行

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