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投てきと跳躍種目の観戦のコツって?
“理系君”になって世界陸上を観戦。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byKYODO
posted2011/09/06 10:30
世界を圧倒する記録で、今大会参加日本人選手の中で唯一金メダルを獲得した室伏広治。ビクトリーランでは、被災地の門脇中学校(石巻市)で渡された寄せ書きの日の丸を掲げ歩いた
世界陸上大邱大会、最後の最後にジャマイカが男子400mリレーで世界記録を叩きだし、興奮を残してその幕を閉じた。
今回、現地で取材してみて、改めて感じたのは投てき種目と、跳躍種目の面白さである。
選手の素質、技術の素晴らしさもさることながら、これらの種目においては「理系的特質」が大いに重要だと気づかされたのだ。
ハンマー投げは「遠心力」についての種目である。
室伏広治が優勝した男子ハンマー投げ。じっくり見れば見るほど不思議な競技だ。そして考えさせられる。
まず、ハンマー投げの観戦においてはテレビカメラは肉眼にかなわないということだ。
テレビはハンマーの寄りの映像を撮るが、記者席では放物線を視界に捉える。いい投てきだったか否かは、この放物線の大きさで一発で分かるのだ。改めて、肉眼の素晴らしさを思う。
ハンマー投げは、選手自らが回転して遠心力を生むわけだが、遠心力は外へ外へと人間を引っ張る。選手は、まずコマのように安定した「軸」を定めなければならず、そのためには体幹をしっかりさせるトレーニングが必要となる。実際、一般の人はハンマーを持って回転することすらむずかしいくらい複雑な要素を持つ競技なのである。
速く回せば遠く飛ぶ……とは限らない不思議な競技。
回転のスピードを上げた方が、遠心力が強くなるかと思い、回転スピードを肉眼で追っていたが、どうも違うようだ。室伏のインタビューを読むと、「自分はゆっくり回転する感覚」だという。う~む、分からない。奥が深い。
そして勝負になるのは、自分が作り出した遠心力を正しい角度でリリースすることである。遠くまで飛んでいくハンマーは、現場で見ていると瞬時に分かる。放物線の軌道が高く、夜空に飛び出していくかのようなのだ。ここに、テレビにはない、現場ならではの「観戦ポイント」がある。
8月29日、室伏の放物線は、誰のよりも高い弧を描いた。
「ハンマー投げ」という種目ではあるが、その実は遠心力を放つ、「リリースする」競技という方が近いような気がする。