Jリーグ観察記BACK NUMBER
低迷するJリーグの人気向上のため、
ピッチの“社長”にも更なる投資を!
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byMasahiro Ura
posted2011/08/27 08:00
ゴールを決め、観客席を指さす川崎フロンターレの“社長”、中村憲剛。先日公開された2010年度のクラブの経営情報では、川崎は営業・経常利益ともに黒字だった
Jリーグの人気を上げるために、手っ取り早い方法がひとつある、と個人的には考えている。それはもっと“社長”に投資するということだ。
社長と言っても、クラブの経営者のことではない。ピッチの上において、ボールが集まり、ゲームの流れを作る、チーム内のヒエラルキーのトップに立つ選手である。この立場の選手を“社長”と名づけたのは解説者の風間八宏さんで、すごく的を射た呼び名だと思ったのでここで使わせてもらった。たとえばバルセロナだったらシャビだし、マンチェスター・ユナイテッドならルーニーだろう。日本代表だったら本田圭佑だ。
“社長”の顔が見える組織というのは、会社でも、サッカークラブでも、魅力が外に伝わりやすい。存在そのものがゲームの見所であり、“社長”に人をひきつける武器があれば、細かい戦術のことを知らない初心者でもサッカーの醍醐味を味わうことができる。
没個性化が進むJリーグに独善的な“社長”は不必要?
かつてJリーグには、ストイコビッチやドゥンガといった魅力的な“社長”がたくさんいた。だが、今のJリーグはどうだろう。遠藤保仁、小野伸二、中村俊輔、中村憲剛らがいるものの、リーグ全体として目新しさという意味では物足りないものがある。柏レイソルで10番をつけるレアンドロもかなりうまい選手だが、ライト層に訴えかける華としてはやや欠ける印象がある。すべてのポジションでレベルアップが進んでいるものの、逆にチーム内の没個性化が進んでおり、小学生が一目でわかるほどの“社長”がリーグに減ってしまった。そういう“社長”に値する選手を、育てる、もしくは獲得するなりの“投資”を是非Jリーグにはやっていただきたいのだ。
もちろん“社長”がいなくてもサッカーはできる。
サッカーの戦術というのは、大きく分けると、2つの前提がある。1つは自分たちがボールを持った状態を前提にしたもの。もう1つは相手がボールを持った状態を前提にしたものだ。
後者の場合、相手からボールを奪って攻めるという発想なので、極論すればゲームは組み立てる必要はない。フィールドプレイヤー全員が働き蜂であればよく、むしろ“社長”の存在が邪魔になる可能性すらある。わかりやすくいえば、2010年W杯のときの日本代表だ。もしかしたら今のJリーグは、こういう発想に基づくチームが増えすぎているのかもしれない。