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バルサを苦しめたシュツットガルト。
カンプ・ノウで“奇跡”は起こるか?
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byUniphoto Press
posted2010/03/07 00:00
バルサを苦しめたシュツットガルト。カンプ・ノウで“奇跡”は起こるか?
スペインからやってきた記者は苛立っていた。
「バルサの調子が悪かった? まぁ確かに僕らは攻撃に時間をかけすぎていたけど、シュツットガルトが良かったんだよ。それだけの話さ」
チャンピオンズリーグ決勝トーナメント1回戦のファーストレグで、VfBシュツットガルトとFCバルセロナの一戦が終わったあとのことだ。バルセロナのボール支配率は66%にも及んだが、シュツットガルトのほうが多くのシュートを放ち、多くの決定機を作った。スコアは1対1の引き分けながら、内容ではシュツットガルトが上回っていた。そんな試合展開を、一体どれほどの人が予想していただろうか。
グロス監督の就任で降格の危機を脱し、反転攻勢へ。
今季のシュツットガルトは一度、地獄を見ている。そして、そこから這い上がった。一時は降格圏内の17位に沈み、試合後にはファンが選手の乗るバスを取り囲んだこともあった。シーズン途中にマルコス・バッベル監督が解任された。ベテランGKイェンス・レーマンへの不満を、監督に告げにくる選手たちがいた。調子を落とし、ベンチにも入れない日々が続いたキャプテンのトーマス・ヒツルスベルガーはシーズン途中にセリエAのSSラツィオへ移籍してしまった。
ところが、12月7日にクリスチャン・グロスが監督に就任してからの公式戦の成績は8勝2分1敗。チームは生まれ変わった。55歳になるスイス人監督は、スイスリーグのグラスホッパーやFCバーゼルを率いて計6度の優勝を経験している。鹿島アントラーズの中田浩二もバーゼルに所属していたときに、彼の指導を受けている。グロスは、クリスマス・イブの夜でも試合に負けた晩にも、選手たちにトレーニングを課す。それゆえ、彼には「陸軍コーチ」というニックネームがつけられた。
「ハードワーク」がシュツットガルトを蘇らせた。
そんな監督が選手に課したのは、「ハードワーク」だった。高い位置からプレッシャーをかけること、奪ってからすぐに攻撃に移ることをチームに要求した。この「ハードワーク」が、昨季リーグ3位のチームを蘇らせた。その一方で、ハードワークを怠る選手には容赦しない。
アレクサンダー・フレブがそうだ。バルセロナからレンタル移籍中のフレブは、今季終了後にバルセロナへ戻ることが決まった。グロス監督はその理由を一言で表現する。
「彼のいるサイドではもっとプレッシャーをかけなければならない」
フレブは一応、スタメンに名を連ねているが、ほとんどが途中で交代させられている。スタメンフル出場を果たしたバルセロナ戦は、たまたま出色の出来だったに過ぎない。「クラブとの契約で、僕は60分間しかプレーできないんだよ」と自虐的なジョークを飛ばしながら、自身の居場所がないことを感じ始めている。
「僕がベンチに下がったあとの方がチームは良いプレーをするくらいだからね。監督の判断も正しいものだと思う」