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バルサを苦しめたシュツットガルト。
カンプ・ノウで“奇跡”は起こるか?
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byUniphoto Press
posted2010/03/07 00:00
バルサを苦しめたシュツットガルト。カンプ・ノウで“奇跡”は起こるか?
バルサ戦で12.351kmを走った副主将のサミ・ケディラ。
グロスの求める「ハードワーク」の申し子というべき存在が、22 歳の若さで副キャプテンに任命された、ドイツ代表のサミ・ケディラだ。中盤の底で守備に奮闘して、マイボールになると前線へと飛び出してく。バルセロナとの一戦でも両チーム最長となる12.351kmを走った。バルセロナでプレーする面々とは対極に位置するといっていい選手だ。ケディラはグロス監督についてこんな風に語っている。
「監督は、シンプルな言葉で指示してくれる。だから僕らは監督の言う通りに練習をするればいいのさ」
監督の方針がぶれることはない。そして、監督がシンプルな言葉で、明確なメッセージを送るために、選手のプレーから迷いがなくなった。
例えば、今季開幕前に加入したパベル・ポブレグニャクがそうだ。グロス監督が就任してから、1試合あたりのボールタッチ数がおよそ1.5倍に増えた。チームメイトは監督の指示どおりに奪ったボールを素早く前線に送る。そこでポブレグニャクが188cm、91kgの恵まれた体を活かして、ボールを収める。そして、自らを追い越していく味方にボールを送る。これで一気にフィニッシュへとつなげるのだ。彼はポジティブな変化の理由を語る。
「監督が自信を与えてくれたからだよ」
モリナーロ、カカウらが攻撃に厚みを。
監督がチームに変化をもたらしただけではなく、今冬の移籍期間で新たにやってきた選手がチームの攻撃力をアップさせた。セリエAのユベントスから加入した左サイドバックのクリスチャン・モリナーロ。FW出身だった彼の積極的なオーバーラップが相手を混乱させる。1月のドルトムント戦では彼が左サイドを制圧し、対面するドルトムントの右MFはわずか22分で交代させられてしまった。南ドイツ新聞も「相手にとって危険な攻撃をしかける」と彼を評している。CLセカンドレグではバルセロナの右サイドバックのダニエル・アウベスが復帰を見込まれており、モリナーロのいるサイドをどちらが制するのかが鍵を握りそうだ。
そして、現在、飛ぶ鳥を落とす勢いにあるのがFWカカウだ。バルセロナ戦でも先制ゴールをマークした。怪我から復帰して5試合ぶりの出場となったリーグの1FCケルン戦でいきなり4ゴールを挙げると、そこからバルセロナ戦を含めた3試合で7ゴールの荒稼ぎ。クロスへの飛び込み、こぼれ球への反応、ミドルレンジからのシュート――彼が決めた7ゴールはバリエーションに富んでいる。今は、何をしてもうまくいく。理由はメンタル面にあるとカカウは感じている。
「メンタルコーチが僕に自信を植え付けてくれたんだ。それで自分のスキルを信じられるようになったのさ」
「バルサのスパーリングパートナーになる気はない」
監督がチームに自信を植え付け、新加入選手と調子をあげてきた選手がチーム力を底上げした。それが今のシュツットガルトなのだ。
バルセロナの本拠地カンプ・ノウで行なわれる試合では、勝つか、2点以上を奪っての引き分けでなければ、ベスト8には進めない。厳しい条件だが、選手たちはやる気に満ち溢れている。副キャプテンのケディラもその一人だ。
「僕らはバルセロナのスパーリングパートナーになる気はないよ。フットボールの世界ではどんなことだって起こりうるんだからね」
3月17日、カンプ・ノウで“奇跡”は起こるのだろうか。