オフサイド・トリップBACK NUMBER
監督の高齢化が進むプレミアで、
ビラスボアスに課せられた使命とは?
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byChelsea FC via /Getty images
posted2011/07/23 08:00
チェルシーの本拠地スタンフォード・ブリッジで行われた監督就任会見に臨むビラスボアス。その国籍や経歴からモウリーニョと比較されることが多いなか、会見ではあえてその“違い”を強調した
クラブの経営そのものに関わる“Manager”の重責。
プレミアはなぜ若手の監督が少ないのか。
よく指摘されるのは「職務」の違いである。
イングランドでは、いわゆるクラブチームの監督はCoachではなくManagerと呼ばれることが多い。
これは単に現場で指揮をとるだけでなく、選手の売買やクラブの運営そのものに関わるケースがあるためだ。若い監督にとってManagerのハードルはかなり高い。
併せては、国産の監督の絶対数が少ないことも挙げられる。
イングランドでUEFAのB級、A級、そしてプロライセンスを持っている人間の数は、スペインの約8分の1、イタリアの約10分の1、ドイツの約12分の1である(昨年の発表)。これでは下からの突き上げなど望むべくもない。
しかし、より本質的な理由は「かけられているもの」の大きさだろう。
FC東京の前監督で、現在は解説者として活躍されている城福浩氏は、次のように喝破していた。
「どのクラブでも、才能のある若手監督を起用してみたいという気持ちはもちろんあると思う。しかしリーグ全体の“格”で言えば、プレミアは今でもリーガやセリエ、ブンデスを上回っている。だからクラブ関係者は、どうしても慎重な決断をしがちになってしまう」
ボアスの就任は監督人事に漂う閉塞感に風穴を開けるか?
このような現状を考えても、ビラスボアスがチェルシーの監督に就任した意義はやはり大きい。
むろん他のクラブはそれぞれの道を行くだろう。またチェルシーの場合、ここまで大胆な人事が可能になったのは、アブラモビッチのワンマン体制が敷かれていればこそという側面もあるし、ビラスボアスの行く手に試練が待ちかまえているのも事実だ。
さらに述べれば、ビラスボラスの着任が、イングランド人の若手指導者が絶望的なまでに育っていない窮状を抜本的に変えるわけでもない。だが少なくとも、プレミアの監督人事に漂う閉塞感に、風穴を開けるきっかけになる可能性はあるのではないだろうか。