オフサイド・トリップBACK NUMBER
監督の高齢化が進むプレミアで、
ビラスボアスに課せられた使命とは?
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byChelsea FC via /Getty images
posted2011/07/23 08:00
チェルシーの本拠地スタンフォード・ブリッジで行われた監督就任会見に臨むビラスボアス。その国籍や経歴からモウリーニョと比較されることが多いなか、会見ではあえてその“違い”を強調した
「我がクラブにはトップレベルの選手がいるし、傲慢に聞こえたら申し訳ないが、トップレベルの監督もいる。私はヨーロッパチャンピオンだし、自分のことを特別な存在(スペシャル・ワン)だと思っている」
「これはワンマンショーじゃない。たぶん自分は、一つの集団(グループ・ワン)と呼ばれるようになるべきだろう。周りにいる人々をグループにまとめていきたいんだ」
同じチェルシーの監督就任会見といっても、7年前にモウリーニョが吐いた台詞(上)と、先月末にビラスボアスが口にしたコメント(下)はかなり違う。
心情を考えれば無理もない。モウリーニョがポルトを指揮していた頃、ビラスボアスがアシスタントを務めていたのは有名な話だし、モウリーニョとは、ポルトの監督を経てチェルシー入りしたキャリアまで同じである。かといってモウリーニョほどの実績はないのだから、ビラスボアスが「スペシャル・ワンの再来」という論調を否定しようとしたのは当然だろう。
監督の世代交代が進まぬプレミアで30代の登用は異例。
しかし彼は十分に「スペシャル・ワン」になる可能性を秘めている。理由は33歳という若さだ。ギャレス・サウスゲートのような例もなくはないが(ミドルズブラの監督を務めていたスティーブ・マクラーレンが代表監督に抜擢されたため、現役選手だったサウスゲートが急遽代行を務めることになった)、プレミアの各クラブを率いる監督の平均年齢は他のリーグよりも明らかに高い。ましてやトップレベルのクラブとなると、プレミアで30代半ばの人間が監督に抜擢されるのは異例中の異例だからだ。
実は昨年のちょうど今頃、セリエA、リーガ、ブンデス、プレミアで指揮をとる監督の平均年齢を調べてみたことがある。
ざっくりとした数字だが、平均年齢が最も低いのはブンデスで約43歳、次がリーガの約48歳、3番目がセリエAの約50歳、最後がプレミアの約52歳だった。
このデータからはさらに興味深い事実も浮かび上がる。各リーグの上位4チーム('09-'10シーズンの最終順位)に限定すると、平均年齢はリーガが約45歳、セリエが約50歳、ブンデスが約58歳、プレミアが約61歳となった。
上位4チームの監督に関してはブンデスの平均年齢も高めだが、少なくともドイツでは世代交代が進みつつあることはリーグ全体の平均年齢(43歳)を見ても明らかだし、現にクロップ(ドルトムント)やトゥヘル(マインツ)といった国産の若手も台頭し始めていた。
対照的にプレミアは、リーグ全体の平均年齢が最も高いばかりか(ブンデスと比べると約“ひとまわり”上になる)、4強となると監督の平均年齢はなんと60歳台に突入してしまう。 他方、若手監督と言えるのは――30代はおろか40代前半まで枠を広げても――3名のみ。国産の人材となると、オーウェン・コイル(当時ボルトン)しかいないという、惨憺たる状態だった。