Column from SpainBACK NUMBER
マジョルカ島民の心を動かした大久保のゴール。
text by
鈴井智彦Tomohiko Suzui
photograph byTomohiko Suzui
posted2005/06/02 00:00
年間最優秀選手賞というのがあったならば、それはフォルラン(ビジャレアル)になる。全20チームの選手たちからコメントを求めた新聞のアンケートでも、最高の外国人選手にはロナウジーニョではなく、ディエゴ・フォルランが大多数を占めていた。
エトーを上回っただけでなく、25得点でプレミア・リーグのアンリと並んでヨーロッパの得点王「ゴールデン・ブーツ」も手にしたのである。5月29日の最終節レバンテ戦、ロスタイムを含めると7分前まではエトーも得点王だった。ラスト2試合でペナルティキックを外すなどノーゴールといいところがなかったカメルーン人に比べて、このウルグアイ人はバルサ戦でハットトリック、レバンテ戦で2ゴールを叩き込む荒稼ぎだった。もし、レバンテ戦での終了間際のゴールがなければ、今シーズン、もっとも賞賛された外国人選手はエトーであり、ロナウジーニョであっただろう。しかし、フォルランのライバルはエトーでなく、アンリだったようだ。彼はきっと、古巣マンチェスターの仲間にこう言いたかっただろう。「オレはアンリぐらいの力はあるんだ」と。
ゴールは、単純に人の心を動かす。大久保君が称えられたのも、まさにゴールあってのことだった。5月7日のオサスナ戦、わずか5分足らずの交代出場で見せたループシュートは「幻のゴール」となってしまったが、あれがクーペル監督の考えを変えた。4番手のストライカーと数えられていたのが、一気にエースストライカーへと生まれ変わることになる。続くビルバオ戦、デポルティボ戦と立て続けに2ゴールを決めて、監督の期待に応えただけでなく、マジョルカの島民も1部残留への望みを大久保君に懸けるようになった。何かをしてくれるんじゃないか。ゴールを決めてくれるんじゃないか。彼が、ボールを持っただけで沸きたったスタジアムの歓声は忘れられない。
クーペルはシーズン最後の記者会見をこう切り出した。「今日は驚嘆すべき夜。うまく話せない。もう、頭の中ではこれまでの思い出が浮かんできてね」アルゼンチン人は涙ぐんでいた。マジョルカはレバンテとの残留レースを制し、新シーズンも、1部で戦う。レンタル契約の期間が切れる大久保君。活躍次第では完全移籍という約束だった。マジョルカの資金ぐりを考えると「疑いあり」という声もあるにはある。だが、いまや未来は明るい。
これで、選手たちは夏のバケーションに入る、と言いたいところだが、そうもいかない選手たちもいる。各国の代表クラスの選手はワールド・カップ予選へと向かった。ブラジル対アルゼンチン戦を終えた代表選手も、引き続き働くことになる。
「コンフェデレーションズ・カップには行きたくない」。そう、愚痴ったのはロナウドだった。わからないでもない。コンフェデレーションズ・カップは決勝戦まで勝ち進めば、6月29日まで続き、レアル・マドリーのキャンプ始動は7月8日なのだから。それでも、相棒のロナウジーニョは優等生な発言をする。「バケーションの予定はだいたい立てたよ。でも、2006年のワールド・カップ向けても考え始めなければならないからね」。対照的なふたりのロニー。本音はみんなロナウドに同感だと思うけど。
このような日程では、日本ツアーに行ってる場合ではなくなった。でも、バルサはロナウジーニョ抜きでもお金が欲しい。だから、無理してでも行かねばならない。
そう言えばバルサのご意見番クライフはこんなことを言っていた。「バルサは移籍金を払うほどのお金はない。それに、もっと他のことに注意を払わなければならん。だから彼らとすでに契約できたことはとってもいいことである」。彼らとは、ファン・ボメル(PSV)とエスケロ(ビルバオ)。2人とも今季で契約が切れるタイミングでの買いつけなので、移籍金は発生しない。ナイスな獲得だ。
今後、バルサはどんな選手を求めていくのか。レアルは新シーズンでもビックネームを獲得するのか。バレンシアは?アトレティコは?オフも興味は尽きない。フォルランはマンチェスターから2百万ユーロもしない金額でビジャレアルが仕入れた金の卵だった。
「安い。うまい。早い」
そんな吉野家のようなストライカーを誰もが探している。