カンポをめぐる狂想曲BACK NUMBER
From:バーレーン「リゾート旅行のサッカー観戦。」
text by
杉山茂樹Shigeki Sugiyama
photograph byShigeki Sugiyama
posted2005/06/07 00:00
この時期、気温が40℃近くまで上がる暑い、暑いバーレーン。
ここでの生活3日目にして、強い日差しに身体中が真っ黒け。
W杯最終予選を戦う我が代表を尻目に、リゾート気分を満喫している。
暑い。アチー。バーレーンにいるんだから、そりゃそうだって言われそうだけれど、それにしても暑い。クソ暑い。だから僕はいま、ちょっとした清涼感が味わえる眺めの良い水辺にいる。ホテルの中庭にあるプールサイドで、冷え冷えのコーラをストローでチュウチュウやりながら、「パワーブックG4」の液晶画面に向かっている。
両耳にはイヤーホーンが装着してある。重低音がビシビシ来る「バング&オルフセン」の優れものだ。音源は「iPodシャッフル」で、いま流れているのは、ベベウ・ジウベルト。そのクールなブラジレイラのヴォーカルが、火照った身体を、ひんやり癒してくれている。
こんな生活をもう3日も続けている。バーレーンは(たまに行くなら)良い国だ。したがいまして、身体中は真っ黒け。かつての僕は「ストーン・アイランド」の海パンを、セクシーにもチラッとめくらない限り、もはや確認することができません。
上々の仕上がりである。正真正銘の馬鹿になった気がする。「気がするだけか!?」誰かが突っ込みを入れる声が聞こえたので訂正。馬鹿です。不謹慎モノです。我が代表が、W杯予選を必死に戦っているその傍らで、リゾート気分を満喫する能天気なライター。そんなヤツの苦言に、耳を傾ける必要などない。
でも、やっぱり暑い。水の中に入って頭を冷やしてきます。
実は、肩が上手く回らないのである。平泳ぎをすると、水を掻くたびに右肩付近のある筋がプチプチと不気味な音を立てる。自転車を運転中、段差で付き腕をしたことが原因だ。四十肩ではありません。だから泳ぐと言っても、身体を裏返しにして浮いてるだけなのだけれど、でも、浮遊感はちゃんと味わえる。僕の身体はなぜかよく浮く。お腹が(少し)出ているからだと思うけれど。まっ、それはともかく、帰国したら、なにはともあれマッサージだ。
もはや僕にとって、マッサージは欠かせないモノになっている。毎度、無理して帰国する理由もそれだ。いま僕は、最近、通い始めたマッサージに、感動しっぱなしでいる。身体を根本から正されたような、爽やかだった少年の頃の自分を取り戻したような、嬉しい気分になれている。なにより、睡眠が深くなった。起床するたびに「寝た」という実感が沸く。
バーレーンでもそれは続いている。ホテルのベッドはイマイチ安っぽく、横になった瞬間、少なからず不安に襲われるが、1分後には記憶が無くなっている。7時間半後には、「寝た」が実感できている。時差ボケなど一切ない。
日本とバーレーンとの時差は6時間。考えてみれば、バーレーンとチャンピオンズリーグの決勝が行われたイスタンブール(トルコ)との間に時差はない。よく眠れる原因は、マッサージ効果だけではないのかも知れない。
僕は「決勝」の翌日、日本へ帰国し4日間を東京で過ごした後、再び飛行機に乗りバーレーンにやってきた。イスタンブールからそのままバーレーン入りした人もいる。こちらで出会った日本人ファンもその一人だった。
「スギヤマさんはどちらから」といって迫ってきたので、「東京からだよ」と答えれば、「そう言えばイスタンブールで見かけなかったもんなー」と、ホザきやがった。この自己中メが。自分の目に僕が止まらなかったからといって、僕がそこにいなかったことにはならないでしょ。イスタンブールの街は広いし、スタジアムもでかいのだ。悪いけれど、こっちはそのうえ東京で、キリンカップのUAE戦もしっかり見届けている。マッサージも受けている。アナタには勝っている。僕に旅行で勝つことは、簡単ではないのだ。
その通りの台詞を、実際、彼にそのまま返してやった。大人げない。いちファンと競い合ってどうする。そんなことは百も承知でいながら、ついムキになってしまう。僕には何かが確実に欠けている。
たぶんこの日焼けで、さらに症状は悪化したに違いない。いまの僕は怖いよ。へたに近づかない方が良いよ。
ストーン・アイランドの海パンは、さっきズブ濡れになったばかりだというのに、もう乾いてしまった。バーレーンは暑い。今夜のフライトで降り立つタイのバンコクも、同じくらい暑い。ホテルもプール付きだってサ。そのうえ、タイにはマッサージがある。タイ式マッサージとは、いったいどんなものなのか。それで絶大な効果が得られれば、僕の症状はさらに悪化する。申し訳ないけれど、いま僕の気分は上々だ。日本の勝利は確かにめでたいことである。しかし、それといまの僕の気分との間に深い関係がなさそうなことも、この際、正直に申告しておいたほうがいい。勝っても負けても僕は快調。サッカー観戦は止められない。