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スペインを支える“100年の育成術”。
サッカーU-17W杯3位の実力とは?
text by
中嶋亨Toru Nakajima
photograph byFIFA via Getty Images
posted2009/11/21 08:00
試合序盤から速いテンポのサッカーで攻めたナイジェリアは、前半30分にGKとの1対1の局面を作り先取点。後半になってようやくボールを支配し始めたスペインだったが、最後まで身体能力の差が埋まらないままの敗戦となった
A代表のアルゼンチン戦に見たU-17との共通項。
U-17スペイン代表がナイジェリアとの体力差を埋められずに敗戦した2日後、スペインA代表はアルゼンチン代表と親善試合を行い、2対1と勝利した。
アルゼンチン監督マラドーナは、「審判の笛がスペイン寄りだった」と言ったが、両チームの間にあるグループとしてボールを動かす連動性には大きな差があり、アルゼンチンは創造的なプレーをまったくすることができなかった。リーガでは均衡を崩すための役割を担っているメッシ、イグアイン、マキシらを揃えていたにもかかわらずだ。特にトップ下でプレーしたメッシには精度の低いボールばかりがまわってきて、ほとんど全ての場面でボールを失うこととなった。
逆に、バルセロナでメッシと共にプレーするシャビ、イニエスタ、ブスケッツらは周囲のサポートを常に受けてボールを失うことがほとんどなく、ゴールチャンスに繋がるプレーを幾度も披露した。
今回のU-17スペイン代表は日本的に言えば“谷間の世代”と言われるチームだった。だが、そのチームが大会3位になったことと、現A代表が世界で最も連動性のある代表チームであることは無関係ではないと思う。彼らはユース世代からグループとして戦うことを徹底する。それは決して個人の特長を抑えるというものではなく、個人の特長を引き出すためのものだ。
チームプレーと個人技の両立。それが100年の歴史だ。
では何故、そのような育成方法が徹底されるようになったのか。それはグループとしてのプレー精度を高め、その中で個人技を発揮しなければ勝てない環境にスペインは置かれていたからだ。激しい競争の中で敗れ続け、それでも勝利することを目指して分析し、戦い続けた結果、スペインは現在のスタイルに辿り着いた。今季でスペインサッカー協会は創立100周年だ。U-17スペイン代表とA代表を短期間のうちに続けて見て感じたのは、サッカーにおける最先端で100年間戦い続けてきたスペインサッカーへの尊敬と、そういう環境に日本がいないという現実だった。