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心の病をタブーにするな。
エンケの自殺から学ぶべきこと。
~ドイツ代表GK、訃報の裏側~ 

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ミムラユウスケ

ミムラユウスケYusuke Mimura

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photograph byUniphoto Press

posted2009/11/26 10:30

心の病をタブーにするな。エンケの自殺から学ぶべきこと。~ドイツ代表GK、訃報の裏側~<Number Web> photograph by Uniphoto Press

11月18日、ドイツ対コートジボワールの試合会場でも、エンケを追悼して黙祷が行なわれた

 ロベルト・エンケがこの世を去った。自殺だった。自宅から2.5km、2006年に亡くなった愛娘ララちゃんの眠る墓のすぐ近くの踏み切りから特急列車に飛び込んだ。11月10日のことである。エンケはハノーファー96に所属していたGKで、ドイツ代表としても活躍した選手だった。

 ブンデスリーガのファンならば、ヴェルダー・ブレーメンの個性派GKティム・ビィーゼ、マンチェスター・ユナイテッドなどが興味を示しているシャルケの若き守護神マニュエル・ノイアー、以前このコラムでも紹介したレバークーゼンのレネ・アドラーをご存知かもしれない。彼らに比べれば、エンケの存在は地味だった。ファンからの人気が特に高かったわけでもない。メディアから頻繁にとりあげられる選手でもなかった。

 しかし、選手や監督など、彼と同じ目線に立つ人たちからの評価は抜群に高い選手だった。生前にはベッケンバウアーを始めとしてドイツ代表OBが高く評価していたし、選手たちの投票によって『キッカー』誌上で昨季のベストイレブンに選ばれた。昨季11位、リーグ最多失点を喫したハノーファーのゴールキーパーが、ベストイレブンである。彼がキーパーとしていかに高い評価を得ていたかがうかがえる。

うつ病を公表し、乗り越えた元ドイツ代表選手もいたが……。

 彼がこの世を去った翌日、テレサ夫人がハノーファーの広報部長につきそわれて会見に臨んだ。そこで彼女が明かしたのは、エンケが2003年以来うつ病で苦しんでいたという事実だった。

 そこで思い出されるのは、あの選手のことだ。セバスチャン・ダイスラー。

 バイエルン・ミュンヘンなどでプレーし、ドイツ代表でも活躍しながら、度重なる膝の怪我とうつ病などが原因で27歳にしてユニフォームを脱いだ天才MFだ。彼は、ボルシアMG時代にエンケとともに1シーズンを戦っている。

 ダイスラーがうつ病を患ったとき、治療にあたった医師が病名を公の場で発表するかどうかを問うたことがあった。サッカー選手が弱さを見せるのは良くないのではないか。医師の頭には、そんな考えが浮かんだ。そのとき、ダイスラーはこう答えたという。

「一体どうして、自分の病気を隠す必要があるんだい? 公表すべきだろう」

『ビルト』紙は、ダイスラーと最悪の結末を迎えたエンケを比較して、こんな表現をしている。

「ダイスラーはうつ病を患っていることを公の場で明かした。エンケは隠していた。ダイスラーは、エンケとは違った形で病気と向き合ったのだ。そしてダイスラーは、一度は復帰することができた(*うつ病からのカムバックを果たしたあとに、ダイスラーは引退している)」

【次ページ】 過剰なプレッシャーがスポーツ選手のうつ病を誘発。

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