プロ野球亭日乗BACK NUMBER
大田泰示は“ガニ股”を直せ!
~原監督が語る主砲の条件~
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byHideki Sugiyama
posted2009/07/03 06:01
松井秀喜と同じ背番号55をもらっている大田。ゴジラ同様、内股になれるか
巨人・原辰徳監督が顔を曇らせている。
「気に入らないんだよ」
何が?
「大田のガニ股!」
大田とは昨年、ドラフト1位で入団した大田泰示内野手のことだ。
大田は原監督の秘蔵っ子である。
評論家時代に広島で行なった野球教室でその素質にほれ込み、母校の東海大相模高へ進学させた。その東海大相模高で高校通算65ホーマーと素質を開花させてドラフト1位で巨人に入ってきた。
もちろん入団直後から期待は大きい。
「将来の球界を背負って立つ選手に育てたい」
まだまだ荒削りのバッティングながら、ファームで実戦を積むことで少しずつプロの水にも慣れてきた。当初は打球が右方向にしか飛ばず、変化球にもからきしだったが、次第に力強い打球も出るようになってきた。そんな中、ファームで7号ホーマーを放った直後の6月17日に初めて1軍に昇格させた。
打撃指導に、守備ではノック。1軍昇格後は監督自ら大器の育成に積極的に手を差し伸べる日々が続いた。
歴代の名スラッガーにはあって、大田に無いものとは?
だが、そんな指導の中で、気に食わないところが指揮官の目に付いたのだ。
「いいバッターはみんな内股なんだよ」
監督は言う。
言われてみて最初に頭に浮かんだのはイチローの姿だった。確かにちょっと女性的な感じがするぐらいの内股である。そして次々と昔のスラッガーたちの姿が頭をよぎった。
長嶋茂雄、王貞治に中西太、田淵幸一も確かに内股だった。そう言う原監督も微妙につま先は内側を向いている。
「ガニ股は力が逃げる。体の軸でしっかりとパワーをためて、回転のときにそれを受け止める。そのためには、必ず内股になるものなんだ。だからいいバッターはみんな内股なのに、大田はね……」
ひざが外を向いている。
大田の前に巨人軍の55番を背負っていた男も……。
大田のようにもともとはひざが外を向いていた強打者を一人だけ思い出した。
ヤンキースの松井秀喜外野手である。
ただ、その松井もプロで様々なことを学ぶ中で、歩き方を修正してきている。
それまでは足の外側に重心がかかるような歩き方だったのを、母趾球(親指の付け根)にかかるように意識して変えてきた。そうすることで足の指でしっかりと土をつかめるようになり、体が安定するようになった。
だから今はスクエアか、意識しているときはやや内股になっている。
「地に足をつけるという言葉がある」
原監督は続けた。
「それがどういうことかといえば地面を味方につけるということなんだ。野球選手で言えばグラウンドも自分のプレーの味方にするということ。そのためにはきっちり地面を踏みしめられなければならない。ガニ股じゃあ、地に足はつかないんだ」
骨格の問題や体のバランスなど様々な要因で内股やガニ股は生まれるという。ただ、松井がそうであったように、意識することで修正はきくものなのである。
地に足をつけるためには、まず母趾球にしっかりと重心を乗せた歩き方ができるようになることだ。
7月1日に1軍登録を抹消されたが、大田の怪物伝説は地に足をつけることから始まるのかもしれない。