プレミアリーグの時間BACK NUMBER
リーグ首位と絶好調のチェルシー。
原動力は新指揮官の“いい人”ぶり!?
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byREUTERS/AFLO
posted2009/11/17 10:30
ミラン監督時代に2度CLを制したアンチェロッティ。チェルシーを初めてのCL優勝に導けるか
いつも不機嫌なアネルカさえ笑顔にさせる人心掌握術。
一方で新監督がもたらした成功が早くも確認できるのは、チームのモラル面。端的な例が「ニコラ・アネルカの笑顔」だ。
マンU戦の前節、ボルトンに完勝(4-0)した際、「アネルカがピッチ上で笑った」と話題になった。「超人ハルク」ならぬ「超人サルク(sulk/不機嫌)」とまで言われるフランス人FWを“その気に”させることは、それほど重要かつ困難なのである。
昨年1月のチェルシー入り当初から、ディディエ・ドログバとの2トップでの出場を希望し続けてきたアネルカだったが、エースのパートナーとして全幅の信頼を与えてくれた監督は、入団当時から数えて3人目となるアンチェロッティが初めてだった。世間では、両者のコンビは機能しないという意見も少なくなかったが、新監督は「得点能力もアシスト能力もトップクラス」とアネルカを援護して、プレシーズンの段階から一貫して2トップでの起用にこだわった。
その結果、「チェルシーで現役を終えたい」とまで言うようになったアネルカは、プレミアのピッチ上ではアーセナルでのデビュー当時('90年代後半)以来とも言われる活躍を披露している。
話題を振り撒いたボルトン戦での笑顔は、ふわりと浮かせた自らのパスが、チームメイト2名の“ワンタッチ”を経由して、ドログバのゴールにつながった直後に見せたもの。
そのドログバが完封されたマンU戦では、相手GKが横っ飛びセーブでギリギリ止めた強烈なシュートや、パスカットに精を出してカウンターの起点となるなど、マンUにとって最大の脅威となっていた。ジョン・テリーの決勝ゴールも、実は、テリーの前頭部と共にアネルカの後頭部にも当たっている。昨季までは、クロスの落下地点にいないことが問題視されていたFWが、ヘディングを十八番とするキャプテンと競ってまでゴールへの貪欲さを見せているのだから、その変貌ぶりには目を見張るものがある。
周囲を惹きつける魅力で“脱モウリーニョ”を目指す。
新監督の下では、他にも、ウィンガーではなく本職のストライカーとして起用されるようになったサロモン・カルー、“ベンチウォーマー”からCB兼SBとして重宝されるようになったブラニスラフ・イバノビッチらが、見違えるように生き生きとプレーしている。『ガーディアン』紙の番記者によれば、チームのムードの良さはモウリーニョ時代に匹敵するとのこと。マンU戦では、テリーの肩を抱きながらヘディングを決めた頭を指差して微笑むランパード、その両者にバラックらが次々に笑顔で駆け寄ってきたゴール・セレブレーションが印象的だった。辛勝とはいえ、最大のライバルに勝ったことで、「アンチェロッティの下で再びプレミアの一大勢力になりそうだ」とメディアで讃えられている。
英語では、自画自賛を“blow your own trumpet(自分で自分のトランペットを吹く)”と表現するが、モウリーニョは、まさにトランペットを吹きまくるタイプだった。片や、アンチェロッティは、チームの内外を問わず周囲の人々が彼のためにトランペットを吹いてくれる。タイトルの行方はまだわからないが、地に足の着いた「いい人」は、クラブ経営陣が国内外のタイトル以上に望んでいるであろう、“脱モウリーニョ”という目標を順調に達成しつつあるようだ。