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MLBはいつだって経済の指標だった!?
数年後、日本の雇用が激変する理由。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byGetty Images
posted2010/02/15 10:30
2009年のトレード期限日である7月31日に、トレードでマリナーズからデトロイト・タイガースへ移ったばかりのウォッシュバーンなのだが……
メジャーリーグの雇用形態は、世の中の雇用を先取りしているのではないか?
ここ数年、ずっとそう考えてきた。それは形態だけではなくて、雇用状況さえ反映していると推測し続けてきた。
もちろん、全部が全部反映しているわけではないけれど、一部でも状況を先取りしているとするなら――それは日本の労働市場をも含む――数年後の日本の状況もたいへんなことになるだろうと想像せざるを得ない。
なぜなら、実績のある職人の就職口がなかなか決まらないからだ。
人気の“左腕で先発投手”、J・ウォッシュバーンの場合。
マリナーズのファンならご存知だろう、昨季途中までチームに在籍していたジャロッド・ウォッシュバーンは、オフにフリーエージェントとなり、数球団が食指を動かしていた。
ところがスプリング・トレーニング開始まで一週間を切った2月10日の時点で、ウォッシュバーンの働き口は決まっていなかった。
ウォッシュバーンはサウスポー。左の先発のニーズはかなり高いはずなのに、決まらない。いくつかの球団が動いたにもかかわらず、契約に漕ぎつけられなかったのはコスト・パフォーマンスが悪いと思われているからだろう。
ウォッシュバーンの年俸は8~10億円の範囲。先発投手の相場としては「ちょっと高め」の投手だ。
この「ちょっと高め」というのがクセもので、いまのメジャーリーグは「本当にすごい高給取り」か、「そこそこ勝ってくれる若くて、安い選手」の両者から売れていく。ちょっと高めの選手は後回しにされ、あぶれてしまうのだ。
不況がメジャーにまで及び、再び買い手優勢の時代に。
今季に向けては完全に球団側、つまり「買い手市場」のマーケットになったわけだが、メジャーリーグの歴史を振り返ってみると、買い手優勢の時代と、売り手優勢の時代があり、それは景気とリンクしている。
1970年代、メジャーリーグにフリーエージェントの概念が発生するが、それまでは球団の選手に対する拘束力が強く、選手の権利はかなりないがしろにされていた。
それから選手が6年間プレーすればフリーエージェントになる時代が到来し、1990年代のクリントン政権時代に経済が復興すると、野球界にもお金が流れ込んだ。スタジアムのスイート席やら個室やらがどんどん売れ、客単価が上がったので球団はうれしい悲鳴。
そのお金がどこに回ったかというと、選手の年俸である。大都市の球団ばかりではなく、2、3年前からはカンザスシティ、ミルウォーキーといった中都市の球団がフリーエージェント市場に参入してきた。
完全に選手側、売り手全盛の時代である。
しかしリーマンショックがすべてを変えた。バランスシートとにらめっこせざるを得ないジェネラル・マネージャーたちは、ちょっと高めの選手を敬遠するようになったのである。