スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
あの“ザウス”から五輪選手誕生!
男子モーグルに見るお金とインフラ。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byGetty Images
posted2010/02/15 15:30
もしザウスが無かったら……西も尾崎もいなかったかも!?
白馬や猪苗代から選手が育つのはなんの不思議もない。環境の豊かさが選手の競技力を向上させるのである。
しかしバブル期、経済が狂乱し、お金があらゆる方向に投資されていくなかで首都圏に出現した巨大屋内スキー場が、オリンピック選手を生むきっかけとなったのは興味深い事実である。
オリンピック選手を育成するには、とにかくインフラが整っていることが重要なのだと改めて考えさせられた。幼少期にいろいろなスポーツに触れ、感覚を磨くことが大事なのだ。
もしザウスがなかったら……西、尾崎の両選手は違う競技を選択していた可能性もあったのではないか。
ザウスで手ほどきを受けた西は、高校から白馬村に単身移り住み、オリンピック選手へと成長したのだ。
事業仕分けもいいが、スポーツにはお金とインフラが必要だ!
残念ながら、日本の現在の経済状況では、こうしたストーリーは生まれにくくなっている。
現在、日本のウィンタースポーツはどんどん縮小の傾向にある。企業からの援助の減少、そして若者層を中心とした多くの人のスキー離れが引き起こしているスキー場の経営不振。オリンピック選手のなかには、アルバイトをしながら競技を続けてきた選手もいる。
政府が事業仕分けを進めている関係で、ウィンタースポーツの施設の維持が困難になってくるケースも予想される。
日本はことウィンタースポーツに限って言えば、競技力を維持するには相当困難な状況に陥っていると言わざるを得ない。
ザウスは「バブルの徒花(あだばな)」だったかもしれない。それでも、ふたりのオリンピック選手が生まれるきっかけになったことは、これからも記憶されるべきだと思う。
極論すれば、バブルがオリンピック選手を生んだのだ。バブルは1990年代前半にしぼんでしまった。しかし、屋内スキー場というある種のエンターテインメント施設にお金が流れ込んだ結果、それから十数年を経てオリンピック選手が誕生した。
スポーツにはお金と、インフラが欠かせない。
現在の冷え込んだ経済状況をみると、十数年後に同じようなストーリーが生まれるとは考えにくいのである。