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赤星憲広と高橋由伸。
“ギリギリ”を避けるプロの勇気。 

text by

鷲田康

鷲田康Yasushi Washida

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photograph byHideki Sugiyama

posted2009/12/18 10:30

赤星憲広と高橋由伸。“ギリギリ”を避けるプロの勇気。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

'03年、18年ぶりのリーグ優勝に不動のレギュラーとして貢献。61盗塁で3年連続となる盗塁王を獲得し、初の打率3割も記録した。しかし、ダイエー(当時)との日本シリーズ第1戦でダイビングキャッチをした際に右手を負傷、シリーズは不振に陥った

 野球ではスピードがあって、守備センスの高い選手ほど余計な失策を犯すことがある。

 普通の選手ならば追いつかない打球にギリギリで追いついてしまう。体勢を崩して、ムリに捕球をするので、ボールを捕り損ねることもある。それが追いついてグラブに触れたがために、失策として記録されることがあるためだった。

 これは選手のケガでも同じだった。

 運動能力の高い選手ほど危険なプレーに挑んでしまう傾向はある。ギリギリのプレーをしてしまう。してしまうというより、できてしまうという方が正しいのだろう。捕れそうもない打球にギリギリで体を伸ばし、ダイブして捕球しようとする。

 そのムリな捕球やダイブの衝撃に、体は悲鳴をあげてしまうわけだ。

原監督が高橋に命じた“ダイビングキャッチ禁止令”の真意。

 2006年に巨人の原辰徳監督が、こんな指令を出したことがある。

「ヨシノブ、もう飛ぶな!」

 高橋由伸外野手もそんな、ギリギリができてしまう選手の一人だった。

 入団2年目の1999年には打球を追ってフェンスに激突して鎖骨を折った。その後も2005年には打球を追って外野フェンスに足を取られて右足首を捻挫した。そしてこの年、シーズン開幕直後にダイビングキャッチを試みて左わき腹を痛めて1か月近く欠場。復帰した直後の5月末に再び、打球を追ってダイブして左肩を強打した。

「1つのアウトをとるためにギリギリまでボールを追うのは、野球選手にとって本能のようなものだけどね。でも、主力選手の務めとは何なのか。それを考えたら彼のプレーは軽率といえるかもしれない」

 原監督はあえて厳しい言葉を吐いて、高橋にダイブ禁止を申し渡した。

 1つのアウトのために、主力選手が長期欠場という代償を払うことは、結局はチームにとってマイナスになる。だから本能のままに飛ぶことは、決してチームプレーではないということだった。

命を危険にさらしてまで全力プレーにこだわり続けた赤星。

「100%の力を毎試合出せなければ、他の選手に勝つことはできない」

 阪神・赤星憲広外野手の引退会見の言葉だった。

 この男もそんなギリギリのプレーができてしまう選手の一人だった。

 9月12日の横浜戦。打者・内川の放った右中間の飛球を追ってダイブした。すでにこのときまでに赤星の体は首はムチ打ち、腰は椎間板ヘルニア……と過酷なプレーの積み重ねでボロボロだった。そしてダイブして体をグラウンドに打ちつけた瞬間に、残された1本の糸が切れた。立ち上がってもヨロヨロと体が揺らぎ、まともに歩くこともできなかった。

「中心性脊髄損傷」と診断されたのは10月の再検査でのことだった。

「今度やってしまったら、最悪、命の危険もある」

 担当医の言葉にこのスピードスターは、ユニフォームを脱ぐ決意をせざるを得なかった。

【次ページ】 観客を沸かせるファインプレーの代償が選手生命とは……。

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