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F1界の根幹を揺るがした、
ブリヂストン「撤退」の衝撃。
text by
西山平夫Hirao Nishiyama
photograph byHiroshi Kaneko
posted2009/11/15 08:00
ミシュランやグッドイヤーを抜き世界シェアと売り上げ高で1位のブリヂストン。'06年のドイツGPにおいてF1通算100勝の偉業も達成している
11月4日に日本のF1界にとって驚天動地のトヨタF1撤退会見が開かれたその2日前。もうひとつの日本F1組の去就が報じられていた。F1タイヤを一手に供給しているブリヂストン(BS)が、再来年の2011年からの供給は行わないという主旨のリリースを配信したのだ。
タイヤ供給に手を挙げるメーカーがない!?
実は、これはF1界にとってトヨタ撤退以上にショッキングな話題なのだ。
トヨタの撤退はドライに見れば1チームの不参加で済むが、ブリヂストンタイヤは全チームの足を支えてきた。だからこの日本のタイヤメーカーの撤退宣言は、F1界全体を揺るがす発表だったのだ。
FIA(国際自動車連盟)の統括するF1世界選手権のタイヤは、現在のところ入札制によるモノポリー(単独メーカー供給)となっている。そして、来年2010年まではBSが供給契約を結んでいるのである。
そのBSが2011年から供給しないということは、FIAが札元となる“F1タイヤ”入札に「2011年からは参加しませんよ」ということを意味する。ということはその入札で最高札を入れたタイヤメーカーが、向こう数年間のF1タイヤ供給を独占できるということなのだが……実際には札を入れるメーカーが出て来そうもないようなのだ。
F1とてクルマ、タイヤがなくては走れない。さて、どうするFIA?
ミシュラン、横浜ゴムはF1には興味なし。
現実問題としてF1タイヤを供給する能力があるメーカーは限られている。
その辺の事情に詳しいBSのエンジニアにコッソリ聞くと「グッドイヤーはF1界を去って10年。いまはNASCARが主体ですから、技術的にも難しい。出来るのはミシュランだけでしょう」ということだった。
当のミシュランの日本駐在員に聞いてみると、本社では「ウチはやらないヨ」とニベもないとのこと。
ミシュランは2006年でF1を去った(入札に参加しなかった)のだが、その最大の理由が“競争のない分野には技術的挑戦の魅力を感じないから”というものだった。FIAの領導するモノポリー路線に正面切って噛み付き、喧嘩別れに近いかっこうでF1界を去っているのだ。F1タイヤを造る技術と設備は持っているが、F1に対するモチベーションがないのではどうしようもない。
では、日本の他のメーカーはどうか?
たとえば横浜ゴム(ADVANタイヤ)。
同社の時枝明記モータースポーツ部長に聞くと「F1はやりません」と笑いながら応えてくれた。同社はいまフォーミュラルノー・ワールドシリーズにタイヤを供給しておりF1タイヤを造る能力アリと見られているが、FIAのWTCC(世界ツーリングカー選手権)への独占供給で別路線を歩んでいてF1には色目を使わないことにしたようだ。BSの二番煎じと見られるのを嫌っているのかもしれない。