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<ハードラーの「自転車」論> 為末大 「走ると漕ぐは似てます」
text by
柳橋閑Kan Yanagibashi
photograph byTakuya Sugiyama
posted2011/06/16 06:00
自転車を偏愛する3人がちょっとマニアな楽しみ方を
教える“私の「自転車」論”。
今回は、ランのトレーニングに自転車を取り入れた
為末大さん。 走ると漕ぐの共通点とは――。
北京五輪後、サンディエゴに拠点を移し、現役続行を決意した為末大。しかし、膝は長年の酷使によってボロボロの状態。満足な練習が行なえない中、何とか運動量を確保しようと始めたのが自転車だった。それが思わぬ効果をもたらし、ロンドン五輪に向けて大きく視界が開けようとしている。
◇ ◇ ◇
サンディエゴは全米でも一、二を争うほど自転車が盛んな街です。海岸沿いにはずっとサイクリング専用ロードが100kmぐらい続いていて、たくさんのサイクリストたちが走っています。脚の痛みで満足な練習ができないこともあって、じゃあ自転車を試してみようと思ったんです。
最初のうちは、坂道を1分間全力で登って、2分間休んでまた登るというインターバルトレーニングが中心でした。でも、最近は自転車に乗ること自体が楽しくなってきて、だいたい週に1回、サイクリングロードを5~6時間走ってます。そのときも1分ダッシュして2分流すというサイクルで走っているので、奇妙なやつだと思われてるでしょうけど(笑)。それにしても、この道はずっと海が見渡せて気持ちがいいんです。雨もほとんど降らないし、自転車乗りにとってサンディエゴは最高の土地だと思いますよ。
自転車のおかげで負荷の強いランニングの練習もできるように。
練習の効果については、やっぱり着地の衝撃がないから膝が痛むこともなく、かなり身体を追い込んでいけるのが分かりました。ランニングだと先に足の筋肉が終わって、心肺能力が追い込みきれないんです。ところが自転車はぎりぎりまで行けるんですよ。
もうひとつ意外な効果がありました。
自転車を漕いでいると、膝の上にある大腿四頭筋を押している感覚があります。これはランニングでは止まるための筋肉なので、あまり使いません。ところが、自転車でこの部分が発達して膝がロックされるようになると、あれほど悩んでいた痛みが消えたんです。最初は余計な筋肉がついてしまうという懸念もあったんですが、むしろ自転車のおかげで負荷の強いランニングの練習もできるようになりました。
ペダリングについては、リズミカルに骨盤、腸腰筋のあたりを小さくトントントントンと動かすイメージを大切にしています。脚で押すというより、腰の部分にピストンがあって、その力を脚がクランクに伝えている感覚。体幹、腰でエネルギーが起きて、足は勝手に回っているというイメージです。