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<『山と溪谷』編集長の「山」論> 神谷有二 「山ブームに思うこと」 

text by

林田順子

林田順子Junko Hayashida

PROFILE

photograph byMiki Fukano

posted2011/05/26 06:00

<『山と溪谷』編集長の「山」論> 神谷有二 「山ブームに思うこと」<Number Web> photograph by Miki Fukano
「なぜ登るのか?」「そこに山があるからだ」は昔の話。
山ガールからクライマーまで山を愛する3人が自分なりの
楽しみ方を紹介する“私の「山」論”。
今回は、山岳雑誌のパイオニア『山と溪谷』編集長の神谷有二さん。
現在の山ブームをどう見ているのか。最新の山事情を解説する。

 大学時代に森林の研究を通じて山の魅力を知ったという神谷編集長。山ガールから自分自身の登山スタイルまでを語ってもらった。

◇    ◇    ◇

 マスコミから「山ガール」について聞かれることが最近本当に多いですね。「どこに行ったら会えますか?」とか、「関西に山ガールはいないんですか?」とか(笑)。今は第三次登山ブームなんです。戦後すぐに海外の登山が解禁されて、マナスルという山に日本人が世界初登頂しました。それをきっかけに第一次登山ブームが起きた。'94年からの第二次はテレビ番組から火がついた、中高年の日本百名山ブーム。そして'07年頃からマスコミが格好よく登山を取り上げ始め、第三次ブームを迎えて若い登山者が急激に増えました。

 山ガールは多くの人にとって分かりやすいきっかけだったんでしょう。ファッションが入口となったけれど、それをきっかけに登山本来の魅力に目覚めた女性が多かったように思います。メンタリティや肉体と直結した喜びみたいなものが求められているんでしょうね。ランにとってのランスカブームが、今となってはきっかけにすぎなかったのと同じです。

ヤマケイ的には富士山というのは、登らない、紹介しない山だった。

 このブームは若い女性だけでなく、中高年や男性にも刺激になりました。実際に山に登っても格好だけでは分からなくなってきているんです。昔は男性も女性も最先端のデザインやブランドの服を着ているのは、20代、30代でしたが、最近は男の子だな、って思って近づくとオヤジだったり、女の子のグループがいると思うと、ひとりお母さんのような方が混じっていたり。

 それに僕はむしろ男の子が増えたな、と感じているんです。彼らは大体ひとりで登っている。まぁ、僕も含めて男性はひとりが多いですね。わずらわしくないんですよ。話を合わせるとか、ペースを合わせなきゃいけないとか。そういうことから解放されて、頂上で達成感を独り占めできる単独行は人気ですね。

 逆に女の人はワイワイと楽しそう。女性のほうがもっと自然に山を楽しんでいる気がします。

 昨年は富士山人気も凄かった。トイレが2時間待ちだったり……その人気に驚きましたね。ヤマケイ的には富士山というのは、登らない、紹介しない山だったんです。それでも一度試しに登ってみたことがありまして。やっぱり歩きにくいし、緑も花も、何もなくて、頂上をひたすら目指すだけだったんですけど、意外にもそれが楽しかったんですよ。登頂したときには思わずみんなとバンザイしながら、「俺、バンザイしてるよ」って(笑)。そんな山ほかにはないです。それ以来僕は、頂上だけを目指す富士登山を「ピュア登山」と名付けています。

【次ページ】 登山=スポーツと考える人もいますが、僕は文化だと。

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神谷有二

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