バンクーバー五輪 匠たちの挑戦BACK NUMBER
上村愛子が使う秘密兵器とは?
女王を支えるメイド・イン・ジャパン。
text by
茂木宏子Hiroko Mogi
photograph bySusumu Tokita
posted2010/02/05 10:30
モーグルの採点傾向に合わせたスキー板で上村も開花した。
藤本は、こうした流れをみて、上村のスキーもカービングターンに適応させていく。2007/08シーズンから一新したスキーは、トリノ五輪時よりも2段階硬く6cm長い、172cmのCE(クラックドエッジの略)というタイプになった。
「CEは一番硬いSEと同じフレックスを持ったスキーなんですが、一般的なシームレスエッジを使ったスキーに比べ、クラックドエッジを採用しているのでしなやかな滑りを実現できるんです」
シームレスエッジは切れ目のない1本の細い金属(ステンレス)でつくられているため、ある限界以上に力をかけて曲げてしまうと元には戻らず歪んでしまう。それに比べてクラックドエッジは2.5cm間隔で金属に切れ目が入っており、弧を描くように深く曲げても力を抜くと元通りのまっすぐな状態に戻る。これをエッジに採用することで芯材の特性が素直にスキーに反映され、性能自体もやわらかくしなやかに変わるのだ。
スキー板の変更で女王の座についた上村に不利な情報が……。
このスキーを武器にカービングターンの技術を磨いた上村は、一昨年のワールドカップで総合優勝を果たし、福島・猪苗代で開催された昨年の世界選手権でも女王の座に輝いたのである。自信を深めた彼女は、バンクーバー五輪の晴れ舞台でもこのスキーで金メダルを狙う。
不安材料があるとすれば、ジャッジの仕方に微妙な変更があったことか。ジャッジの傾向をいち早くキャッチしないことには勝てるスキーの開発はできないため、藤本はオフシーズンには国際スキー連盟(FIS)主催の「ジャッジ・クリニック」にも参加する。そこで得た情報は、どんなものだったのか――。
「昨シーズンはカービングターンじゃないとあまり評価されませんでした。それが、今シーズンはスピードがあってスキーもきちんとコントロールできていれば評価する……という方向に緩和されたんです」