バンクーバー五輪 匠たちの挑戦BACK NUMBER
上村愛子が使う秘密兵器とは?
女王を支えるメイド・イン・ジャパン。
text by
茂木宏子Hiroko Mogi
photograph bySusumu Tokita
posted2010/02/05 10:30
ソルトレークシティ五輪から連続で金メダルを獲得!!
舶来信仰の強いスキーの世界において、日本製と聞くと性能を疑う向きもあるかもしれない。だが、スキーの性能にはうるさいラハテラも「操作が簡単で、乗っていて楽しいスキーだ」と大満足。ID oneを引っさげて初めて臨んだ2002年ソルトレークシティ五輪では、男子モーグルで金メダルを獲得した。2006年トリノ五輪の男子モーグルでも金メダルに輝いたデール・ベッグスミス(オーストラリア)が愛用していたのはID one。男子モーグルでは目下、ID oneブランドが五輪2連覇中だ。
そして今回、ID oneで金メダルを狙うのが上村愛子である。
トリノ五輪までの上村は、アクロバティックな技を繰り出すエアのイメージが強かった。ちょうど3Dと呼ばれる難易度の高い技が解禁になって間もないため、審査員や観客の目を引きつけるエアに力を入れる風潮が主流を占めていた。上村のスキーづくりもコーチと相談し、エア重視のものになった。
エアの大技よりも鋭いターンを重視する競技傾向が強まった。
「ソルトレークシティ五輪では172cmの硬いスキーを履いていたんですが、トリノ五輪ではエアがしやすいスキーということで一番やわらかく短い(166cm)スキーに変えたんです」
おかげでエアではたいていの技はこなせるようになったが、得意の大技コークスクリューでわずかなミスが出て5位にとどまった。
「エアでの大技はリスクが高い割に点数が伸びない」
上村に限らず、多くの選手たちがこんな思いを抱いていた。
もともと、モーグルの採点はターン50%、エア25%、タイム25%の比率になっており、選手に求められるのはまず第一に美しく速いターンだ。エアの大技もすでに出尽くした感があり、競技の主流は難しい技に挑んでリスクを負うよりは確実な技をこなして滑りを重視する方向へとシフトしていった。それに加えて最近は、アルペン競技の回転種目などと同様に、モーグルでも従来の横にずらすターンから直線的に斬り込んでいくカービングターンが求められるようになってきた。