チャンピオンズリーグの真髄BACK NUMBER
好チームと強チーム。
text by
杉山茂樹Shigeki Sugiyama
photograph byMaurizio Borsari/AFLO
posted2008/12/26 00:00
パナシナイコスがベスト16に勝ち名乗りを上げた。インテルとのアウェー戦にも勝利を収め、グループリーグを首位で通過。僕の予想通り、世間を驚かすことになった。
監督は言わずと知れたテンカーテだ。バルセロナ、チェルシー時代には、助監督としてチームをチャンピオンズリーグファイナルへ導いたオランダ人指導者。戦術家的な色彩の濃い監督だ。
戦術家といわれる外国人監督は、概して話し好き。教え魔だ。取材が進むと、こちらの取材用のノートとペンを取り上げ、紙に書き記しながら解説しようとする。テンカーテもその一人になる。バルセロナ時代に2度、ロングインタビューしたことがあるが、彼の志向する攻撃的サッカーについて、こちらのノートにペンを走らせながら「お前にこの理屈、分かるか?」と言いたげな自信満々の表情で、事細かく説明してくれた。
彼の言う攻撃的サッカーと、プレッシングサッカーは、ほぼ同義語だ。ボールを高い位置で奪う作業に、攻撃性を見出そうとしているわけだ。相手ボールになっても、プレッシングという“前向き”な道具を用いて攻撃性を保とうとする。
とはいえ、今回のパナシナイコスが、必ずしも、プレッシングを武器に戦っているようには見えない。相手によって、戦い方を使い分けている感じだ。この監督の優れているところは偵察能力にある。攻撃サッカーもできるが、相手の弱みにつけ込もうと、臨機応変な対応戦術を見つけ出すことも得意にする。幅は広い。
いっぽう、攻撃的サッカーを標榜するチームの中には、マイボールの時は強いが、相手ボールになると、途端にあたふたするケースをよく見かける。精神的に極端にダウンし、気分悪そうにプレーする。銀河系軍団を名乗っていた頃のレアル・マドリーが、その代表的なチームになる。バルセロナの悪い時も、そうした面がなきにしもあらずだったし、今回、パナシナイコスに敗れたインテルにも、そんな気配を感じた。
相手ボールの時間帯を、いかに前向きに過ごすか。それができれば、攻撃の機会はより増える。サッカーはより楽しくなる。当時テンカーテは、それこそが目指すべき攻撃的サッカーだと語った。
しかし、プレミアのトップ4は、もはや概ねそれができている。マイボールの時も、相手ボールの時も、同じ精神状態でプレーしている。スター選手を多く抱えているにもかかわらず、“銀河系”らしさは見当たらない。それこそが、彼らの強さの秘訣だ。
パナシナイコスはインテルに対して好チームぶりを発揮できたが、プレミアのトップ4相手にはどうだろうか。彼らは強チームでありながら好チームだ。最近のチャンピオンズリーグで、単なる好チームが勝ち上がりにくくなった理由であるし、番狂わせが激減した理由である。
プレミアトップ4のエンターテインメント性は上昇したものの、一方でチャンピオンズリーグ全体のエンタメ性は低下した。
そんな閉塞感を、テンカーテ率いるパナシナイコスが打破してくれるだろうか。彼らが決勝トーナメント1回戦で対戦するペジェグリーニ監督率いるビジャレアルも好チームだ。つまり、これは好チーム対好チーム、名将対名将の対戦になる。
このレベルの指導者が、日本代表監督に就けば、日本のサッカーも変われると思うのだが、それはともかく、スペインの4番手としてベスト16入りを決めたアギーレ監督率いるアトレティコ・マドリーも、また好チームの部類に入る。グループリーグでは“強&好チーム”のリバプールと、互角の戦いを演じている。
スペインの3番手、4番手は、かつてのデポルティーボやバレンシアに代表されるように、好チームの象徴だった。甘さの残る強チームに食らいつき、勝利をもぎ取ってきた過去がある。ところが、ここ2、3年は、やや元気がない。“好&強”に、屈してきた感がある。
今季はどうなのか。テンカーテ、ペジェグリーニ、アギーレに対し、エールを送りたい気分だ。でないと、チャンピオンズリーグのエンタメ性は、ある意味で確実に低くなる。好チームの運命はいかに。