Column from SpainBACK NUMBER
もうひとつの「スペイン」代表。
text by
横井伸幸Nobuyuki Yokoi
photograph byD.Nakashima/AFLO
posted2009/01/08 00:00
スペインの冬の風物詩は自治州代表チームの国際試合だ。
地元意識が強いこの国では、多くの自治州が代表チームを持っている。一部最近デビューしたところもあるが、ほとんどは20世紀初めに生まれた地域対抗戦用の選抜チームが元となっており、フランコ政権時の(実質)消滅期を経て、90年代末から再興し始めた。
ABC順に挙げていくと、アンダルシア代表、アラゴン代表、アストゥリアス代表、バレアレス諸島代表、カナリア諸島代表、カンタブリア代表、カスティーヤ・ラマンチャ代表、カスティーヤ・レオン代表、カタルーニャ代表、エクストレマドゥラ代表、ガリシア代表、ラ・リオハ代表、ムルシア代表、ナバラ代表、バレンシア代表、バスク代表……。
「独立国家を代表するチーム、あるいは関係サッカー協会(この場合スペインサッカー協会)に認められたチーム」ではないので、FIFAの公式戦には出場できないが、親善試合なら問題ない。そこで冬のリーガの中断期に世界の強豪を招き、一戦交えるのが恒例行事となっている。
この冬はムルシア、エクストレマドゥラ、ガリシア、そしてカタルーニャが試合をして、地元のサッカーファンを喜ばせた。
一方で、自治州代表の雄バスクは、今回は非常に“らしい”理由でお休み。昨年「エウスカル・エリア(バスク語が話されている国)」代表に変えたチーム名を、バスクサッカー協会が再び一昨年までの「エウスカディ(バスク国)」代表に戻してしまったことが原因だ。これに選手が反発し、ストライキに出たため、予定していたイラン戦を中止せざるを得なくなった。民族的・文化的プライドの高いバスクらしいが、おかげで15年間続いた年末の試合が途切れてしまった。
もうひとつ、アンダルシアも直前にケニア戦をキャンセルした。こちらはビザの発給が遅れ、ケニアが試合日までにスペイン入りできなくなったため。セビージャの躍進に比例してポテンシャルを高めてきたアンダルシアは楽しみなチームだったので残念だが、仕方がない。
しかし、埋め合わせは開催された4試合がしっかり果たしてくれた。
自治州代表は実質練習なしで試合に挑むので、質の高いチームプレイは期待できない。が、普段あまりスポットライトを当てられない若者が、鮮やかなワザを見せてくれることが多々ある。
ムルシア対エストニアでは、現在好調のバジャドリーで才能をアピールしているペドロ・レオンが、ドリブルやパスで、何度もスタンドを沸かせた。結果は、ムルシアがW杯予選でスペインと同組にいるエストニアと互角に渡り合い、1-1の引き分けだ。
エクストレマドゥラはペルーと対戦。2度リードを許しながら追いつき、2-2で90分を終えた。同州のクラブは低迷が続いており、2部にも上がれない状態なので、代表の健闘に観客は満足したに違いない。
ガリシアは当初チリと対戦交渉していたが、最終的にバスク戦が流れたイランを招いた。この試合で輝いたのはグラスゴー・レンジャーズのナチョ・ノボだ。同日昼、精神的に世界で最も消耗する試合のひとつであろうオールドファーム・ダービーを戦ったばかりだというのに、最初から出場して2得点である。ガリシアは3-2で勝った。
トリを務めたカタルーニャは、カンプ・ノウにコロンビアを迎えて2-1で勝利。スコア以上の快勝で幕を下ろした。
97年の冬に定期戦を始めたカタルーニャ代表は、事情が許すなら、いま史上最強のチームを組むことができる。ユーロ王者のプジョル、シャビ、カプデビーラ、セスク、セルヒオ・ガルシアに加え、バルサのビクトル・バルデスやボージャン、セルヒオ・ブスケッツの他、優れたカンテラを持つエスパニョールから出たロポやコロミーナスら好選手が熟してきているからだ。
現に、今回は故障中のセスクと、都合で参加できなかったシャビ、ビクトル・バルデスを欠きながらコロンビアと真っ向勝負し、余裕をもって寄り切った。先制ゴールを決め、チームを勝利に導いたのは、今季バルサでは影が薄いボージャンだ。
カタルーニャはこれで冬の試合にピリオドを打ち、今年から“ネーションズカップ”を開催するという。詳細はこれから決まるが、形式は4チームによるノックアウト方式のミニトーナメントを検討中。出場チームには、いまのところバスクやスコットランド、ウェールズ、北アイルランド、クロアチア、スロベニアといった代表が候補に挙がっている。
かつてブラジル代表戦やアルゼンチン代表戦を実現させたカタルーニャサッカー協会の政治力をもってすれば、面白いメンツによる面白い大会になる可能性は高い。自治州代表の非公式戦だからといって侮るなかれ。