岡田ジャパン試合レビューBACK NUMBER
キリンチャレンジカップ2008 VS.シリア
text by
木ノ原句望Kumi Kinohara
photograph byTamon Matsuzono
posted2008/11/17 00:00
前半3分にDF長友佑都がドリブルで切り込み、思い切りよく右足を振り抜くと、ボールはそのままシリアゴールに吸い込まれた。立ち上がりのあっという間の先制点には、長友本人も敵も味方も、神戸ホームズスタジアムに集まった観客も驚かされたに違いない。
11月13日、日本はシリアとの親善試合に3−1で勝利したが、この得点場面は試合全体を象徴するかのようだった。
自陣でボールを受けて45mほど、ドリブルで持ち上がる。その間、長友はほとんど相手からプレッシャーを受けることはなかった。開始早々に相手の隙をうまくついたと言うこともできるが、とにかく、この日のシリアは拍子抜けするほど手応えがない。
おかげで前半26分には2点のリードを奪う展開に。右サイドを崩して中村憲剛にボールが渡ると、彼の精度の高いボールにFW玉田圭司がボレーで合わせた。3点目も左サイドからの崩しで、FW大久保嘉人が決めた。
中盤でMF阿部勇樹や中村憲剛が自由に動きまわり、両サイドバックの内田篤人と長友も、ストレスフリー状態で何度も攻撃参加ができていた。だが、本来はこんなことはあり得ない。1週間後に控える、敵地ドーハで行われるカタールとのワールドカップ最終予選の試合では、決して想定できない展開だ。
カタールはブルーノ・メツ監督体制になり、ブラジルなどから帰化した選手が活躍し、前線で相手を脅かすようになった。同じ中東勢といっても、シリアとは全く似ても似つかないチームだ。
その強敵を相手に、ケガで代表入りを辞退した、DF中澤佑二やGK楢崎正剛の抜けた穴をどうするのか。重要な問題のはずだが、シリア戦では追加招集したDF寺田周平や高木和道を擁したバックラインを試すような場面もあまりなかった。後半、カウンターからPKを与え失点したが、あれだけ次々と選手交代をすれば、コンビネーションも取りづらくなる。イージーな試合展開に気も抜けたか。
収穫といえば、左サイドでプレーした大久保やケガから回復したFW田中達也が、前線で激しく相手を追い込んでプレスをかけ、守備の意識の高さを見せたことだろう。彼らのプレーは効果的だったし、おかげで、前回のウズベキスタン戦で見られた、どこか抑えたようなプレーの印象を払拭することはできたかもしれない。
それに、中村憲剛をはじめとした中盤の選手が、より効果的なパスやコンビネーションワークを意識してプレーしようとする姿勢にも好感が持てた。
だが、試合を見ていて頭に浮かんだのは、「公開スパーリング」や「フィジカル調整試合」などの言葉。1カ月ぶりに集まった代表チームで、国際試合でプレーする感覚をある程度取り戻す。組み合わせによってはコンビネーションを確認する。この試合は、そのぐらいの役割しか果たせなかったのではないだろうか。改めてマッチメイクの意義について考えさせられた気がする。
岡田武史監督は試合後に「今日の勝利が次のカタール戦を保証してくれるものではない」と話し、意識を新たに取り組む必要性を説いていた。
しかも、19日のカタール戦ではメンバーが変わる。週末のリーグ戦を終えて現地に入るMF中村俊輔(セルティック)、MF松井大輔(サンテティエンヌ)、MF長谷部誠(ヴォルフスブルグ)ら欧州勢や、アジアチャンピオンズリーグ決勝を戦ったMF遠藤保仁らガンバ大阪勢が合流するのだ。欧州、アジア、Jリーグとそれぞれの舞台で戦い、コンディションもまちまちの選手が、現地で短時間の手合わせをしただけで、過去5戦で1勝もしていない相手と戦うことになる。
やはり、頭を切り替えて、次への準備をした方がいい。