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CLでの立ち位置。 

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杉山茂樹

杉山茂樹Shigeki Sugiyama

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posted2008/03/24 00:00

CLでの立ち位置。<Number Web> photograph by AFLO

 アーセナルが見事なサッカーでミランを寄り切った。準々決勝に残った8チームの中で、アーセナルのサッカーは、最も新鮮に見える。攻撃的で効率的。美しくも鮮やか。強者にして好チームなのだ。

 ミランとのアウェー戦をナマ観戦したモノとしては、つい「アーセナルこそ優勝候補の本命だ!」と、声を大にしたくなるのだが、次第に感激が収まるにつれ、逆の思いが勝り始めてきた。アーセナルは危ないんじゃないか。

 そんな思いと呼応するかのように、アーセナルは国内リーグで不振に陥り、首位の座をマンUに明け渡してしまった。ミラン戦の反動だと思うが、僕が危ないんじゃないかと思う理由は、アーセナルの調子そのものではない。自身が抱える内的要因ではない。

 アーセナルより眩しく見えるチームが現れたからだ。それはサッカーの中身の問題と言うより、CLにおける立ち位置と関係がある。結果的に、アーセナルは表舞台に躍り出ることになった。追われるチームになった。強者ではあるが好チームであるアーセナルにとって、これは歓迎すべきことではない。好チームにとって不可欠な、チャレンジ精神が失われる可能性は高い。

 ベンゲル・アーセナルは、CLを制したことは未だかつてない。強者ではあるが、強者のメンタリティまでは備えていない。ミランではないのだ。精神的に守りに入ったとき、好チームぶりをいかんなく発揮できるかといえば、怪しいと言わざるを得ない。

 では、アーセナルより眩しく見えるチームはどこになるのか。フェネルバフチェとシャルケには、少なくとも優勝を狙う力はない。ローマは好チームではあるが、いかんせん経験がない。ブックメーカーから本命視されているマンUやバルサではもちろんない。

 立ち位置がよく見えるチームは、ずばりチェルシーとリバプールになる。国内リーグのポジションが何より良い(原稿執筆時、チェルシー=3位、リバプール=4位)。マンU、アーセナルより、チャレンジ精神は旺盛だと考えられる。絶対負けられない戦いの呪縛にはまる可能性は低い。

 ベスト8の組み合わせ抽選を前に、チェルシーとリバプールの対戦相手が、僕にはとても気になっていた。そしてその結果を受けて、アーセナル危うしの思いは、いっそう高まることになった。同時に、その対戦相手であるリバプール、フェネルバフチェとの対戦が決まったチェルシーが、いっそう眩しい存在に映ることになった。

 アーセナル対リバプールは大接戦になるだろう。2位と4位という国内リーグの現在の順位は、精神的には逆に作用することが予想されるからだ。捨てるモノが少ないのはリバプール。第2戦をホーム・アンフィールドで行う対戦順でもリバプールが有利に思える。

 思い出すのは、04〜05シーズンの準決勝、チェルシー対リバプールだ。国内リーグの順位は、それぞれ1位と5位だった。国内ではチェルシーが強者ぶりをいかんなく発揮していた。しかし結果はチェルシーホームの第1戦が0−0。リバプールホームの第2戦は1−0でリバプールだった。リバプールはその勢いのまま決勝でミランにも大逆転勝ちを収め、優勝を飾っている。

 イングランド勢は、ベスト8の4チームを占めている。ということは続く準決勝でも、イングランド同士が対戦する可能性が高いわけだ。国内リーグで、優勝争いを演じているマンUとアーセナルには、さぞ嫌な道のりに見えるに違いない。国内リーグの上下関係を引きずることになる同国対決より、強者の象徴であるバルサとの対戦の方が、むしろ精神的にはずいぶん楽であるはずだ。バルサが相手なら、チャレンジ精神旺盛にぶつかっていける。しかし、チェルシー、リバプールにはそうはいかない。

 UEFAチームランキングでは両者より下に位置するので、対戦順もホーム戦が先になる。国内リーグとは逆の関係になる。

 プレミア勢4チームの関係が、僕にはいまとても面白く見える。その強者より弱者の方が眩しく見えてくる。CLに潜むこれはアヤの一つだと思う。真髄の一つでもあると思う。少なくとも精神的に優位に立つのはチェルシーとリバプール。とりわけ、国内リーグ優勝の目がほとんどないリバプールが、僕には怪しい存在に映るのだ。

アーセナル
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