MLB Column from WestBACK NUMBER
トーリ就任の裏にある
ドジャースの政変劇。
text by
菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi
photograph byAFLO
posted2007/11/12 00:00
11月5日朝、ドジャー・スタジアムで行われた記者会見が、全国規模で注目を集めた。広報発表によると、出席者総数は190人の記者を含め260名を数えた。もちろん、これまで自分が出席したドジャースの記者会見では最大で、センターフィールドに特設会場を設置しての、屋外会見というのも初めての体験だった。それだけジョー・トーリ氏のドジャース監督就任というのは、センセーショナルな出来事だった。
「とにかくこの2週間は、自分と妻にとって慌ただしいものだった。1つの由緒ある球団に別れを告げ、もう1つの由緒ある球団に迎えられた」
冒頭の挨拶でトーリ新監督が心境を語っているとおり、ヤンキース退団からドジャース入団まで、まさに電光石火としかいいようがなかった。会見後も1時間以上TVのインタビューに応じた後、ロサンゼルスとニューヨークの番記者を中心に行われた記者会見(というより懇親会的というべきもの)でトーリ監督が漏らした言葉に、その辺りを窺い知ることができる。
「今日の会見で最も大変だったのが、知らない選手のことについて質問され、答えなければならなかったこと」
12年間ヤンキースに在籍したトーリ監督はこの会見でも、ドジャースに関する知識はほとんどないと白状している。決まっているのはヤンキースからトーリ監督に従うことが決まったドン・マッティングリー氏とラリー・ボーワ氏のコーチ2人のみ。チームの戦力分析もできないまま、ドジャースの監督就任要請を受けているのだ。実は、その裏にドジャース内で起こった“政変劇”が潜んでいるらしいのだ。
ドジャースがトーリ監督の就任発表をしたのが11月1日。その前日の10月30日に、あと2年の契約(最終年はチームがオプションを持つ)を残しながらグレディ・リトル前監督の退団を発表している。シーズン最終戦にネッド・コレッティGMは、来シーズンもリトル監督が指揮を執ると公言していただけに、何とも焦臭さを感じないだろうか。
実際、ドジャース番記者の1人に確認したのだが、リトル前監督の退団発表があるまで、ドジャース側はこれらの監督問題に関する取材にまったく協力することはなかったし、GMや関係者は一切コメントを発表しなかったという。さらにリトル前監督の退団に関しては、本人を呼んでの記者会見は行わず、カンファレンス・コール(電話をつないで行う会見)のみ。それも回線数に限りがあり、地元の記者でも参加できなかった人が何人かいたというほどだった。
「両者(チーム側と本人)が納得しての結論だ。理由は1つではない。様々な個人的な理由が重なって、今回の結論に達した」
ドジャースの公式サイトにアップされているカンファレンス・コールを改めて聞いてみたのだが、不可解に映る退団について何度となく理由を聞かれても、リトル監督の答えは曖昧な言葉を繰り返すだけ。次の日にトーリ監督の就任発表が行われたというタイミングを考えてみても、リトル前監督の退団自体が本当に自分の意志なのか怪しくなってくる。
実際、就任会見で監督就任までの経緯を聞かれたトーリ監督も、「具体的な日付を答えることはできない」と明言を避けているし、会見後に記者に囲まれたコレッティGMとフランク・マッコート・オーナーも最後まで歯切れの悪い発言を繰り返していた。
結局真相は藪の中という感じだが、地元メディアの報道を総合すると、どうやらドジャースは、リトル前監督と来シーズンの話し合いを続けながら、一方でオーナーを中心に(最初はコレッティGMも蚊帳の外に置かれていたらしい)新監督探しを行っていた。まずジョー・ジラルディ氏と交渉を行ったが、彼がヤンキースの監督就任要請を受けることになり失敗。その直後からトーリ監督との入団交渉が始まり、見事交渉が成立。そのためリトル前監督と話し合い、今季限りの退団で折り合いをつけたというのが事実のようだ。こうなればドジャースのリトル前監督に対する扱いは批難を浴びざるを得なくなる。だからこそ、誰1人として関係者は詳細を明らかにしようとしないのだろう。
就任4年目のマッコート・オーナーは、これまでの人事面で多少冷淡な姿勢をみせている。2年前に新進気鋭のポール・デポデスタ氏をGMに迎えながら契約途中で解雇している。ドジャースを強くしたいという熱情の現れなのだろうが、あまりに暴慢なやり方が度重なるようなことになれば、選手たちから信用を失う危険も孕んでいる。