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ヤンキース新監督にまつわる「心配」 

text by

李啓充

李啓充Kaechoong Lee

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photograph byREUTERS/AFLO

posted2007/11/08 00:00

ヤンキース新監督にまつわる「心配」<Number Web> photograph by REUTERS/AFLO

 ヤンキース新監督にジョー・ジラルディ(43歳)が就任することが決まった。前任のジョー・トーリ監督と同じく現役時代は捕手、ヤンキースでは1996年から4年間プレー、3度のワールドシリーズ優勝に貢献した。2004年のシーズン開始前に引退、翌2005年にはヤンキースのベンチ・コーチとして、トーリ監督の腹心を務めた。

 2006年マーリンズ監督に就任したが、その直後、マーリンズは、「経費削減」のためにスター選手を次々と放出、「チーム解体」を断行した。同年のマーリンズ年俸総額1500万ドルはメジャー最低、しかも、次に年俸総額が低いデビルレイズの3500万ドルと比べても半分以下と、徹底したスター選手の叩き売りを行ったのだった(今季、レッドソックスのワールドシリーズ制覇に貢献したジョシュ・ベケット、マイク・ロウェルも、この時「叩き売り」された選手だった)。

 就任交渉の際、チーム解体計画について一切聞かされていなかったジラルディにしてみれば、「詐欺」にあったも同然だった。しかし、「詐欺」にもめげず、他のチームだったらまだマイナーでプレーしていたはずの選手達ばかりからなるチームを率い、ジラルディは、78勝84敗(借金わずかに6敗)と予想を大きく上回る好成績を残した。かくして、就任1年目でリーグ最優秀監督賞を受賞するという快挙を達成したのだが、オーナーは、「反りが合わない」と、ジラルディを解雇してしまったのだった。

 今季も、その気になればどこかの監督に就任することは簡単だったが、ジラルディはテレビ解説者として「浪人」する道を選んだ。「浪人となったのは、トーリ退団が近いと見てヤンキース監督の座をねらっているからだ」と見る向きは多かったが、実際、6月にサム・パーロッツォ監督を解任したオリオールズから熱心に監督就任を要請されたにもかかわらず、ジラルディは「家族と離れて暮らしたくない」と、固辞したのだった。

 そんな経緯があっただけに、私は、ジラルディの息子がレッドソックス・ファンだと知った時、腰を抜かすほど驚いてしまった。ジラルディが解説する試合をテレビで見ていたのだが、カメラが、観客席でレッドソックスの帽子をかぶった少年の顔をアップでとらえた際、「あれは僕の息子。デイビッド・オーティースの大ファンなんだ」と、ジラルディが気まずそうに告白したのである。「ジラルディが噂通りヤンキースの監督になったら、あの子はどうするのだろう?」と、私は、お節介にも、他人の家の親子関係の心配を始めるようになったのだった。

 同じ頃、リトルリーグの世界一決定リーグ戦をテレビで見ていたら、「父親はジラルディの元チームメート」で、しかも、熱心なレッドソックス・ファンだという少年選手が出てきたので笑ってしまった。この選手は、コーディ・ベリンジャー、父親のクレイは、1999年、ヤンキースでジラルディのチームメートだった。コーディ君、父親がヤンキースに在籍していた時はもちろんヤンキース・ファンだったが、なぜレッドソックス・ファンに宗旨替えしたかというと、父親を解雇したヤンキースが憎くてならなかったからである。普通、レッドソックスを応援することとヤンキースを憎むこととは同義であるので、コーディ君の宗旨替えは非常に理に適った行為だったのである。

 しかし、ジラルディ家の場合は、ことはそれほど単純ではない。今までレッドソックス(=アンチ・ヤンキース)を一生懸命応援してきた子供が、父親が監督に就任したからといって、一夜のうちにヤンキース・ファンに変わり、大好きだったオーティースを憎むことができるようになるのだろうか? もし、ヤンキース・ファンへの宗旨替えに失敗した場合、自分がおおっぴらにレッドソックスを応援したら父親の立場がなくなるし、本心を隠して、表向きだけヤンキースを応援するようになるのだろうか? そうなった場合、「本当は憎い敵を応援するふりをする」という不自然な行為が、純真な子供の心に大きなトラウマを残すようなことはないのだろうか? …と、心配の種はつきないのだが、このあたり、「本当はホモセクシャルなのに、親を心配させまいと、無理をして女性とつきあう子供の苦境」と比べていただければわかりやすいのだろうか?

 もっとも、「お前もワールドシリーズに優勝できなかったじゃないか」と、ヤンキースが3年契約満了前にジラルディを解雇した場合、息子さんがレッドソックス・ファンに戻るのは、とても簡単なのだろうが…。

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