MLB Column from WestBACK NUMBER

メジャーと日本、異なる移籍感覚。 

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菊地慶剛

菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi

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photograph byGettyimages/AFLO

posted2005/01/17 00:00

メジャーと日本、異なる移籍感覚。<Number Web> photograph by Gettyimages/AFLO

 年も改まり、いよいよスプリング・トレーニングまで残すところ1ヶ月余りとなった。各チームとも最後の追い込みとばかり積極的な補強を行っており、大物選手の入団会見が続々とTVを賑わせている。選手の移籍が止めどもないメジャーを取材するものにとって、この時期は誰がどこのチームに移ったのかを追いかけるのもまさに一苦労。実際のところベテラン選手などはキャンプが始まってから契約する場合もあり、さらにはシーズン開幕直後に大きな選手移動もあるぐらいだから、すべてを把握するのは不可能といってもいい。

 それに比べ、日本の大物選手移籍は何と少ないことか。ようやくFA移籍というのが定着してきたようだが、トレードに関しては以前から存在しながら積極的に活用されていないように思われる。というのも、日本の場合はトレードの多くがあくまで戦力外選手を対象にしているからだ。

 「トレードされるような選手になりたい」

 あと一歩でドジャーズからヤンキースへのトレードが決まりかけた石井一久投手が、トレードご破算の感想を語った言葉に、違和感を抱いた人もいたのではないか。しかしメジャーではむしろ商品価値の高い選手を積極的にトレードする傾向が強いの周知の通りだ。

 このオフをしても、アスレチックスなどは5投手すべてが2桁勝利を挙げたメジャー屈指の先発陣のうち、何とハドソン、マドラー、レッドマンの3投手をトレードで放出してしまった。3投手とも30歳以下とまだまだ働き盛り。しかし年俸総額を最小限に抑えなければならないチーム事情故に、高額年俸を求めFA移籍される前に他チームの有望若手選手とトレードする方がアスレチックスにとっての前向きな戦略なのだ。

 昨年合併騒動に揺れた日本球界では、構造的な赤字経営体質が浮き彫りとなり、今なお球界全体に暗い影を落としている。ファン離れを防ぎ、ある程度チームが勝つために大物選手やスター選手を必要とする固定観念が根強い気がする。しかしメジャーでは、前述のアスレチックスばかりかツインズ、マーリンズなど若手選手をどんどん育成し、強豪チームと渡り合えるようなチーム作りに成功している。日本でもマーケティングや収入面でチーム格差は歴然としている。そろそろ発想の転換が必要なのではと思う。

 さらに大物選手やスター選手の移籍は相乗効果をもたらしてくれる。ファンの関心を集める“ドラマ”を生み出してくれるのだ。例えば昨年のA・ロドリゲスのヤンキース移籍などは、地元ヤンキース・ファンの盛り上がりを増長するだけでなく、古巣レンジャーズやマリナーズのファンには格好の野次る対象だし、先にトレードがまとまりかけたレッドソックス・ファンにとっても憎き相手となるわけだ。1人の選手の移籍で4チームが“因縁ドラマ”の演出を、集客に利用することができるのだ。

 もし仮にこのオフ清原選手が他チームにトレードされていたら、新チームとジャイアンツの対決は1年を通してマスコミの格好の取材対象になっていただろうことは容易に想像できるだろう。またセ・パ両リーグ間で積極的な大物選手の移籍が行われるようになれば、人気低迷のパ・リーグ選手の認知度も増してくるはずだ。今年は日本プロ野球にとって変革の年であることを期待してやまない。

 ところで野茂投手が主宰するNOMOベースボールクラブが、新年を迎え改めて運営を支援してくれる会員を募集している。現在では会員費を払うだけでなく、同クラブのオリジナルグッズを購入することでも支援できるようになっている。少しでも多くの若者が野球を続けられる環境を整備することも、日本球界が抱える重要な課題だと思う。興味がある方は、ぜひ同クラブ事務局(nomo@nomo-baseball.jp)まで問い合わせを。

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