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<クロスカントリーの2人のエース> 夏見円&石田正子 「葛藤と一徹」 ~特集:バンクーバーに挑む~
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byShino Seki
posted2009/12/10 10:30
(右)夏見円(左)石田正子
「『あ、楽しい。隣の人、こんにちは』みたいな感じ(笑)」
だが、'08-'09年シーズンは一転する。調子が一向に上がらなかったのだ。開幕以降、得意のスプリントでも20位台の成績に推移する。3位をはじめ、入賞する大会も多かった前年からすると、雲泥の差だった。
「試合の数日前にスピード・トレーニングをしていい形で終えても、なぜか熱が出たり、体調を崩すということが毎回続きました。いい状態で大会に臨むということが難しかったですね。
なんでだったのか……シーズン前の練習で、オーバートレーニング気味のところがあったのかもしれませんが。あの感覚でやれることはなかったですね」
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唯一、いい状態で臨めたのは、2月のチェコ・リベレツでの世界選手権、石田正子と出場したチームスプリントの日だった。
「今日はいい、という状態になれたんですね。『あ、楽しい。隣の人、こんにちは』みたいな感じ(笑)」
結果は4位入賞。表彰台まで、あと1秒4に迫る会心のレースだった。
石田正子は2時間半ものあいだ苦しい練習を続けていた。
「目が強いな」
2006年2月、トリノ五輪。プラジェラートのクロスカントリーの会場にいた一人の選手に、強い印象を抱いたのを覚えている。
あれから3年が過ぎた。札幌郊外でローラースキーに励む石田正子は、いっそう強い目をした選手になっていた。
午前9時にスタートした練習は、2時間半、休むことなく続けられた。国道沿いの、起伏のある道である。下りもあるとはいえ、楽なはずがない。ときに表情をゆがめて、それでも手は止めない。見ているだけでも苦しくなりそうな光景だ。
練習を見ているうちに、全日本のヘッドコーチであり、夏見と石田の所属先、JR北海道のコーチでもある岡本英男氏の言葉を思い浮かべた。
「コーチの役割は、石田をいかに休ませるかですね」
その言葉をぶつけると、石田はこんな答え方をした。
「じっとしている時間がもったいなく感じるんですね、性格的に。だから練習だけじゃなくて、生活でも、今何をしたらいいのか状況を的確に把握して、何が最善かを考えて行動しないと、と考えることが多いです」
休むときはあるのだろうか。
「もちろん(笑)。やるときはやる、ぼーっとするときはぼーっとする。めりはりはきちんとつけます。遠征のときも、午後から休みなら下の町までバスで降りてお茶したりします」