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<クロスカントリーの2人のエース> 夏見円&石田正子 「葛藤と一徹」 ~特集:バンクーバーに挑む~
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byShino Seki
posted2009/12/10 10:30
(右)夏見円(左)石田正子
あの感覚を取り戻せたらいけるというのは分かっている。
夏見は、札幌の世界選手権、そしてその翌シーズンで手にしていた感覚を、昨シーズンは手放しがちだった。
「あの感覚を取り戻せたらいけるというのは分かっているんです。取り戻したい」
ふいにトリノ五輪でのことを話し始めた。
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「フィギュアスケートの練習、見に行ったのですが、荒川静香選手を見たとき、あ、この人すごく楽しいんだろうなと感じたんです。やりたいことができていると言うんでしょうか。あの表情は作り物じゃなかった。きっとやるな、と思っていたら、金メダルでした。私も取り戻せたら、『あ、今日はいける顔をしてる』と思ってもらえるような表情をしますからね。見ていてくださいね」
たやすくはないかもしれない。しかし、戻る場所が明確であるということは、戻る道筋は見えていることを意味する。
認知度を上げるためにも「メダルを獲りたいですね、やっぱり」。
石田にとって、バンクーバー五輪に出場すれば、2度目のオリンピックとなる。前回のトリノ五輪は複合で35位、10kmクラシカルは31位。20kmリレーでは転倒した。少し苦さも残った大会だった。
「あまりピークを持ってこれなかったなあと思います。ただ、あのときは地力が地力だったので、すごくよかったとしても10番台前半くらいの実力でした」
結果を積み重ねた今回は異なる。
「トリノ五輪前のこの時期と、今では全然違います。場数も踏んだし、物怖じすることもなくなったし」
彼女が、機会あるごとに言い続けてきたことがある。
「クロスカントリーに注目してほしい」
その言葉にこめた思いとは?
「マラソンだったらみんな知っていて、観ますよね。だったら、クロスカントリーの長距離ももっと観てもいいんじゃないかなと思います。そもそも、子どももお年寄りもできる競技だから、もっと楽しむ人も増えていいと思う。それに、メジャーなスポーツだってマイナーなスポーツだって、みんな頑張っているんです。もっと平等に見てほしいという思いがあります。少しずつ認知度は上がっているかもしれない。けれど、もっと大々的に広まってほしいんです」
小学1年から打ち込んできたクロスカントリーである。誇りだってある。だから、目指すところははっきりしている。
「(バンクーバー五輪では)メダルを獲りたいですね、やっぱり。そうじゃないと、注目してくれないじゃないですか」
決して大きく脚光を浴びることのない場所で、二人は黙々と練習に取り組んできた。厚い壁に跳ね返されてもあきらめずに進んできた。その時間があったから、世界が見える位置にたどりつくことができた。
今、それぞれの場所から、バンクーバーを見据えている。
夏見円(なつみまどか)
1978年7月2日、北海道生まれ。8歳で競技を始め、旭川大高、日大、チチヤス乳業(広島)を経てJR北海道。'02年ソルトレイクシティ五輪スプリント12位、'06年トリノ五輪チームスプリント8位。'07年世界選手権スプリント5位。'08年W杯スプリントで日本人史上初の3位。'09年2月世界選手権チームスプリント4位。170cm、59kg
石田正子(いしだまさこ)
1980年11月5日、北海道生まれ。旭川大高、日大を経てJR北海道。高校時にクラシカルで総体、選抜、国体、ジュニア五輪の4冠。'06年トリノ五輪10kmクラシカル31位。'09年2月世界選手権10kmクラシカル8位、チームスプリントで4位。3月ノルウェーでのW杯30kmクラシカルでW杯日本人史上2人目の3位に。161cm、57kg