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<アフリカの雄を多角分析する> カメルーン 「運命を変えたひとつの死」 ~南アW杯対戦国研究~ 

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ジョナサン・ウィルソン

ジョナサン・ウィルソンJonathan Wilson

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photograph byGetty Images

posted2010/01/23 08:00

<アフリカの雄を多角分析する> カメルーン 「運命を変えたひとつの死」 ~南アW杯対戦国研究~<Number Web> photograph by Getty Images

新監督により主将に任命されたエトー。今夏のW杯でも彼の出来がチーム浮沈の鍵を握る

厳格な規律で選手の心を束ねていったルグエン監督。

 では、ルグエンはいかにしてカメルーンを甦らせたのか。まず指摘できるのは、チームに然るべき「規律」を植えつけた点である。

 前任者のプフィスターは'07年からカメルーンを率い、'08年のアフリカ・ネーションズ・カップでは準優勝も収めていた。

 しかし一種の「慣れ」もあったのだろう、'09年に入るとチームには沈滞ムードが漂い始める。トーゴに0-1と敗れた試合などは、その最たるものだったとする人は多い。

 特に顕著だったのはエトーで、彼は心ここにあらずといった様子だった。代表を退くのではないかという噂さえ流れたし、エトーの態度は他の選手にも悪影響を及ぼしていた。

 このような状況に対するルグエンの「処方」は単純明快だった。彼はやる気のない選手は代表から落とすと断言。と同時に時間厳守や食生活の節制、携帯電話を使用していい場面とそうでない場面といったものをしっかり規定し、選手に徹底していったのである。

 と同時にルグエンは、エトーを立ち直らせる別の一計も案じた。長年、キャプテンを務めてきたリゴベール・ソング(アレクサンドル・ソングの叔父で、現在はトルコのトラブゾンスポルに所属)をその座から下ろし、エトーに大役を与えたのである。

ルグエン監督就任後は、9得点失点1の好成績で4連勝。

 元カメルーン代表で、PSG時代にルグエンとともにプレーした経験を持つパトリック・エムボマは、ルグエンについてこう述べる。

「ポール(ルグエン)は野心家なんだ。たしかに(カメルーン代表を率いる)仕事は大変だったかもしれないが、彼にはチームをうまく手なずけていけるだけの才能がある。ポールは独特な意志の強さの持ち主だし、たとえ誰が相手でもふざけた真似は許さない。もともとカメルーンには優秀な選手が揃っていたわけだから、あとはそういう要素をしっかり活用できるかどうかだったんだと思う」

 ルグエンがもたらした精神的変化は、ピッチ上におけるパフォーマンスも劇的に改善していく。それはルグエンの就任前、1敗1分けで得点ゼロに終わっていたカメルーンが、以後の4試合では9得点失点1の好成績で4連勝を収めたことが如実に示している。

【次ページ】 攻撃偏重もなく、久々にバランスの良い陣容のカメルーン。

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