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カルレス・プジョルが語る 「バルサDFの自信と不安」 

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熊崎敬

熊崎敬Takashi Kumazaki

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photograph byTomohiko Suzui

posted2008/02/14 15:51

カルレス・プジョルが語る 「バルサDFの自信と不安」<Number Web> photograph by Tomohiko Suzui

 昨年12月セルティックとの対戦が決まると、バルセロナのキャプテン、カルレス・プジョルは、油断すべきじゃないと前置きした上で、こう言った。

 「良い相手だ。もっと厳しいチームと当たる可能性もあったし、俺たちほど運の良くないチームもあった」

 バルサとスコットランドのチームの相性はそれほど良くないのだが(過去13回対戦し2勝6敗5引き分け)、実力差を考えると、プジョルの言うとおり、これは当たりくじだろう。攻撃力を比べると、明らかに分がある。

 その上バルサは、実は守備も堅い。ここ数年で「オフェンスのチーム、弱点は守備」というイメージが定着してしまったようだが、振り返ってみると、フランク・ライカールトのバルサが形を成した'04-'05シーズンからこちら、ビクトル・バルデスはリーガ・エスパニョーラ最少失点ゴールキーパーに与えられるサモラ賞を毎年争ってきた。今季に至ってはリーガ前半戦19試合を'90-'91シーズン以来となる13失点で終え、チャンピオンズリーグのグループリーグ6試合は、出場全32チーム中2番目に少ない3失点に抑えている。

 こうなるとセルティックは本当にお手上げのように思える。だが、よくよく考えると、「ひょっとしたら」という狙い所がないわけでもない。今季のバルサはディフェンスラインが全く固定されていないという点だ。

 チーム作りにおいて、ゴールキーパーからフォワードに向かう中心線を確立するのは大事なこと。ライカールトのバルサにしたってバルデス-プジョル-シャビ・デコ-ロナウジーニョのラインが整ってからぐっと強くなった。にもかかわらず、今のバルサは要となるセンターバックさえプジョル、ガブリエル・ミリート、リリアン・テュラム、ラファ・マルケスを廻して使っている。両サイドバックもジャンルカ・ザンブロッタ、オレゲール・プレサス、エリク・アビダル、シウビーニョをとっかえひっかえ。Bチームの若手を試した国王杯の2試合を除くと、試した組み合わせは30試合で16通りにもなり、同じ4人を続けて使ったのはただの5回しかない。それでいて堅守なのだから文句はないが、セルティックにとっては、ここがバルサ攻略の糸口になるのではないだろうか。逆に、バルサにとっては破綻のきっかけになるかもしれない。

 この猫の目のように変わるディフェンスラインの秘密について、テクニカルスタッフのうち誰よりも弁が立つアシスタントコーチのエウセビオ・サクリスタンに聞いてみた。

 「選手を1シーズン60試合から解放してやる。それだけだよ。そうすることで、出番を与えられた選手は100%の状態で試合に臨めるようになる。ただ、誰を出すかは相手次第だ。一応レギュラーチームというのがあって、それを基にはするけれど、相手チームにはどんなフォワードがいるか、どんなシステムを使ってくるかによって、選手を替えている。たとえば身長2mのジギッチ(バレンシア)のようなフォワードがいたら、こちらも上背のあるセンターバックを起用する」

 確かに、ハイボールが脅威になると思われたシュトゥットガルト戦やレンジャース戦では、センターバック4人の中で最も背が高いテュラムとマルケス(ともに182cm)のうち1人、もしくは2人を並べて使っている。

 一方で、スピードあるフォワードを擁するアトレティコ・マドリー戦やビジャレアル戦にはプジョルとミリートのコンビで臨んでいる。

 このやり方について選手側はどう思っているのだろうか。プジョルに代表してもらおう。

 「もちろん休みなしの方がいいさ。試合に出続ければ調子を上げていけるし、自信も得られる。でも、バルサがディフェンスラインを固定しないのは故障者が出たせいであり、何より、試合数のせいだ。数年前ならいざ知らず、今の時代ローテーションは必須だよ。毎回同じ選手でやるわけにはいかない」

 チャンピオンズリーグを本気で狙うビッグクラブが選手を2セット用意し、試合の重要度に合わせて入れ替えるのは、今では当然だ。ただし、選手のコンディションやモチベーションの維持、試合結果の安定といった問題が出てくるので、そのアイデアを貫徹するのは難しい。

 当のバルサも昨シーズン全面的なローテーションに挑戦したけれど、開幕からわずか2カ月後、チャンピオンズリーグの対チェルシー2連戦とリーガのレアル・マドリー戦を2敗1分けと負け越した時点で、ライカールトが失敗宣言をしている。

 「各ポジション2人ずつでチームを作ったなら、そのコンセプトは実践に移すべき。練習はみんな一緒にやってるわけだから、全員、自分が何をしたらいいのかはわかってる。

 そりゃ毎試合同じメンバーでやる方が俺たちとしては楽だよ。隣にいるヤツが何を考えているのか、よくわかるようになるからね。でもバルサでは無理だ。3日ごとに試合なんてバカげてる。それならば少し休んで、代わりに、疲れのない誰かが入った方がいい。で、その後また俺が出る、と」

 コーチ陣にとっては嬉しい言葉だろう。キャプテンでありディフェンスリーダーであるプジョルがこう言うのだから、少なくとも守備陣に関して、モチベーションの問題は起きそうにない。

 だが、選手を入れ替えながらディフェンスの質を一定に保つのは易しくないはずだ。自陣ゴールラインから40m離れたところで守ることもあるバルサの最終ラインはかなり特殊な上、選手はそれぞれ持ち味が違う。

 「それは、今も言ったように、全員が同じ練習をしているから大丈夫。選手のタイプとラインの安定はあまり関係ないしね。アビダルのようなスピードあるタイプだって、テュラムのようなポジショニングの上手いタイプだって、ミリートのようにほとんど走らないタイプだって、皆ちゃんとやれてる。ミリートはなぜ走らないかって?― いつも良いところに立ってるから、走る必要がないだけだ。

 それぞれ個性は異なるけれど、バルサのスタイルを難なくこなしている。個々の特長は、その上で、補足的なものとして効いてるんだ」

(以下、Number697号へ)

カルレス・プジョル
バルセロナ

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