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「赤い悪魔」が表舞台から消えていく 

text by

安藤正純

安藤正純Masazumi Ando

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posted2008/02/13 00:00

「赤い悪魔」が表舞台から消えていく<Number Web>

 いきなりですが問題を出します。

──ドイツで“赤い悪魔”として恐れられるチームとはどこでしょうか?

 〈ヒント〉=リーグ優勝している、代表チームに多くの人材を送っている、スタジアムがつねに満員、'06年W杯の開催地。

 ここで「ミュンヘン」と答えた人は鞭打ち刑に処します(笑)。正解は「カイザースラウテルン」です。

 いま、このラウテルンが非常事態に陥っている。'05〜'06年にリーグ16位で終り2部降格、翌シーズンは6位となって再昇格を果たせなかった。今季はさらに沈み、降格ゾーンの15位という有様。直近の5試合で獲得した勝点は5。このペースだと3部の地方リーグ、つまりアマチュア(実態はセミプロだが)まで陥落してしまうのが確実な情勢だ。古くは'54年W杯の中心選手を多数輩出、近年ではクローゼを育てたクラブとしては寂しい限りである。

 2部に落ちるチームとはたいていの場合、監督の指導力とか選手のパフォーマンス不足が直接の原因となる。そして監督人事を変えて選手の入れ替えを行なえば、そこそこには持ち直すものである。実際にボルシアMG、ケルン、マインツ、デュイスブルク、ロストック、1860ミュンヘン、アーヘンといったところは、たいてい1〜2シーズンで1部に復帰を果たしている。クラブの予算規模がある程度大きいことで人材を集めやすいことも有利に働く。

 しかしラウテルンは不調のドツボに嵌りこみ、一向に上昇する気配がない。ここ10試合は2勝3分5敗だが、5敗はすべて1点差。これじゃ気分もスカッとしない。昨年11月のアーヘン戦でベテランDFのブゲラがアキレス腱を傷めて手術、今季の出場が絶望となったほか、新年のスタートとなった第18節のボルシアMG戦ではMFシンプソンとDFベダがレッドカードをもらい、それぞれ4試合と3試合の出場停止処分を食らった。シンプソンはチーム2位のゴール(たったの3点だけど貴重な3点でもある)をあげている選手、ベダは平均採点がチーム4位と非常に安定した守りの要である。

 これによりラウテルンの戦力低下は避けようがなくなった。冬の移籍もほとんどなかったわけだから、現有戦力でやりくりしていくしかない。ならば監督の指導力に期待するしかない……と救いを求めたくなるところだが、とてもじゃないが無理な注文だ。

 ここで再び問題を出します。

──レクダル監督を知ってる人、手をあげてください!(沈黙)

 ノルウェー代表83回(17得点)、W杯は2回出場して2点を取った。ちなみに「1人で2点」は今も破られていないノルウェー記録である。現役時代は主にローカルなチームを渡り歩いた。ドイツだとボルシアMG(9試合)とヘルタ・ベルリン(64試合)だ。指導者としての経歴はノルウェーとベルギーで計6年間やって、今季開幕からラウテルンを指揮している。

 ここで私はレクダルの指導法とか戦術をとやかく批判したくない。クラブがここまで落ちた主たる原因ではないと考えるからだ。では何が原因なのか。1つに集約することはできないが、いくつかの小さな要因が重なる。それが、フロント人事、ユースチームの停滞、スポンサー不足、借金、旧態依然のチーム戦術とそれを支持するファンの甘さ、といったものだ。

 ビジネス界出身で日本語を喋る会長と、サッカー界で顔が広い広報部長が共に辞任してフロントが一新されたのだが、まるでその効果が出ていない。これといった産業がなく失業率の高い地域性ではスポンサーが集まらない、つまり金欠。緻密に計画を立てず、その日暮らしのお気楽ぶりで長期的視野を欠いた強化策は言うに及ばず。ここがシュツットガルトやバイエルンと決定的に異なる点なのだ。

 唯一の救いは、「まだ」ファンが見放していないところか。同じ陥落候補のイェナ戦に2万4000人、ダービーマッチのマインツ戦に3万9000人、もう1つの陥落候補アウエ戦では2万1000人がスタジアムを埋めた。2部リーグの平均入場者数1万5000人を大きく上回るこの数字は、ファンの強い支持の表われでもある。

 恐らく今後、よほどドラスチックにクラブの構造変革を実行しない限り、ラウテルンの再上昇はないと見るのが自然だろう。彼らの沈みゆく姿を眺めていると、私はどうしても時代の波に取り残された“負け組”であると結論づけたくなる。ビジョンを欠いた経営を続けてきたことで、厳しい判定が下されたのだ。

 何度も訪れているフリッツ・ワルター・スタジアムはドイツでも、いや欧州でも独特の雰囲気に溢れた素晴らしい建物だ。W杯で日本対豪州戦をやった所なので日本人にも馴染みがある。スタジアムは小高い山の頂点に立つ。それは、『登るのは難しいが、落ちるのは簡単』を象徴するようで、チームの現状とオーバーラップする。物理的にこれほど頂点と底辺を表現するチームもないものだ。

ヒェティル・レクダル

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