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ハットトリックで歓喜の“F***”連呼。
ルーニー「2試合出場停止」の真相。 

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山中忍

山中忍Shinobu Yamanaka

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posted2011/04/14 10:30

ハットトリックで歓喜の“F***”連呼。ルーニー「2試合出場停止」の真相。<Number Web> photograph by AFLO

FAへの上訴の結果待ちの間に行なわれたCL準々決勝チェルシー戦1stレグで、決勝点を挙げたルーニー。貴重なアウェーゴールでもあり、準決勝進出に向けて大きな1点となった

ルーニーの懲戒処分は浄化キャンペーンの生け贄か。

 FAによる懲戒処分に対して上訴すると、場合によっては軽率な申し立てとみなされ、追加処分を受けるというリスクを伴う。今回も、出場停止が3試合に延長される可能性があったが、最終的には2試合のままだった。つまり、「何故、ルーニーだけが?」というマンU側の言い分に、ある程度の正当性があったということだ。

 FAは、これまで同様のケースに目を瞑り続けてきた。例えば、1992年のポール・ガスコイン。国産の天才としても問題児としても先輩であるガスコインは、ノルウェーとのW杯予選を前に先方のメディアにコメントを求められて、「とっとと失せろ(F*** off)!」と答えた。ガスコイン流のジョークだが、相手国内では侮辱発言として問題視された。にもかかわらず、母国のFAによる裁きには至らなかった。

 今回、ルーニーが処分第1号となった背景には、問題のウェストハム戦前日に、FAが『リスペクト(敬意)』と名付けたキャンペーンの再徹底を発表していたことがあるのだろう。

 数年前、審判団への非礼を撲滅するべく始まった浄化キャンペーンの対象が、選手による行き過ぎ行為の全般にまで拡大されたのだ。厳格な姿勢を打ち出したいFAにすれば、ルーニーの処分に勝る見せしめはなかったに違いない。 実際、処分が言い渡された当日には、セミプロリーグの責任者が「これでキャンペーンに対する注目度と意識が格段に向上する」と、BBCラジオで語っていた。観客数が少ないセミプロの現場では、ピッチ上で横行する罵り言葉が観衆の耳にも届くため、親が子供をスタジアムに連れてきたがらないのだという。

南アW杯でもサポーターへの侮蔑で謝罪の過去が。

 一方、ルーニーは、自身への「有名税」の高さを十分に認識しているべきだった。

 FAによるキャンペーン強化に加え、昨夏のW杯で、やはりカメラに向ってサポーターへの侮辱発言を口にして謝罪を強いられた過去があるのだから。この認識不足と、同じ過ちを繰り返した軽率さは、その場の勢いに流された言葉使いと合わせて、ルーニーの落ち度だと言える。

 しかしながら、今回の処分は、結果的にルーニーとマンUにとっても悪いことではないのではないだろうか? そう考えられる理由は、チェルシーとのCL準々決勝第1レグ(1-0)でのパフォーマンスにある。

 この一戦でのルーニーには、やる気の空回りを危惧する声が強かった。

 FAへの上訴の結果待ちだったとはいえ、判決が覆る確率は低いと見られていた。続く2試合での欠場を覚悟していたはずのルーニーは、悔しさの余り冷静さを欠くと見られていたのだ。特に欠場対象の2試合目は、地元の宿敵マンチェスターCを相手にしたウェンブリー・スタジアムでのFAカップ準決勝。ルーニーの無念は推して知るべし、である。

【次ページ】 出場停止直前の試合では、エースとして冷静にプレー。

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