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一場靖弘を偏愛する“ヤクルト芸術家”
「ながさわたかひろ」を知ってるか?
text by
村瀬秀信Hidenobu Murase
photograph byYu Terayama
posted2011/03/06 08:00
ながさわたかひろ氏を京橋のギャラリーにて撮影。昨シーズンのヤクルトの全144試合分の銅版がズラリとその周りを囲んでいる
美術家・ながさわたかひろを知っているだろうか?
画家・銅版画家として、斬新な作品を世に送り出し、芸術界の名門老舗雑誌『美術手帖』(美術出版社)にも「に・褒められたくて」という連載を持つ新進気鋭のアーティストである。
彼の代表作となった「プロ野球画報」は、その名の通りプロ野球を題材としている。自身がファンでもある東北楽天。野村克也監督の最終年となった'09年シーズン144試合+CSの全150試合を、1試合につき4×4センチの名場面を9コマで、銅版画19枚に描きあげた。この作品は、“若手アーティストの登竜門”と呼ばれる岡本太郎現代芸術賞の特別賞を受賞し、昨年6月にはKスタ宮城内に作品が展示されるなど、各界から高い評価を集めた。
現代芸術とプロ野球のコラボレーション。シュールレアリスムとシュールストロムぐらい似て非なるこの2つの世界を融合させたながさわが、先月、東京・京橋で「告白/ヤクルト愛」なる個展を開いているという話を聞いた。楽天だったはずなのに、何故ヤクルト愛なのだろう?
東京ヤクルトの熱戦を銅版画で描く、野球帽の芸術家。
京橋の雑居ビルの地下にあるギャラリー。その純白な空間の四方を10×8センチの銅版、144枚が取り巻く。銅版の一枚一枚には、それぞれ試合結果と共にヤクルトの選手が活き活きと描かれている。144試合分。実に繊細な線で選手の特徴を捉えたその版画は、選手の投球・打撃フォームに至るまで実に忠実に再現されていて圧巻である。
「描くのは毎回一発勝負なんですよ。毎日試合を観て、その試合のカギになるプレーを自分なりに選定し、翌日の試合開始までに銅版に描く。そして完成したものは紙に刷り出し『プロ野球カード』にして球団へと持って行き選手のもとへ届けてもらう。また試合を観る。そんなルーティンを1年間続けたんです」
部屋の中央に鎮座するヤクルト帽の男がいう。彼こそ、ながさわたかひろ氏。東京ヤクルトの2010年シーズンの全144試合を銅版画にした『プロ野球カード』の作者である。
しかし、どっからどう見てもヤクルトファンである。楽天はどうしたのだろうか? 入口にあったフライヤーを見ると、
東京ヤクルトに移籍しました。
ながさわたかひろ
そんな文字と、氏の顔写真がある。なるほど、移籍したらしい……。