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立浪和義の例にみる新人育成の極意。
澤村拓一や斎藤佑樹をどう指導する?
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byKazuhito Yamada
posted2011/02/21 10:30
1988年シーズンの試合前練習。この年、ルーキーイヤーだった立浪は開幕戦からスタメンとなり、オールスターゲームにも出場。中日のリーグ優勝にも貢献し、日本シリーズでは全試合先発出場を果たしている。新人王を獲得し、高卒新人としては初のゴールデン・グラブ賞も受賞
川口コーチも採用する「いいところを伸ばす」論理。
澤村はキャンプ当初から、基本的には評判は悪くない。前評判通りにストレートは145kmを越え、ボールに力がある。ただ、もちろん欠点がないわけではない。
肩の開きが早くボールの出どころが見易いという声もある。そして変化球を投げるときに、フォームが緩むという指摘があった。
「そうですか。なら、真っ直ぐを投げるときに少し緩んで投げさせますよ。そうすれば変化球と同じような力感になるでしょう」
不敵な笑みを浮かべながら、川口コーチはこう言い放った。
「ダメなところからではなく、得意なところからダメなものに近づいていった方が修正はしやすいですから」
これもまたダメ、ダメではなく、いいところを伸ばすという論理だった。
苦手を克服しようとして、得意な部分までダメになることも。
変化球を投げるときにフォームが緩んで球種がばれるから、ストレートと同じテンポと腕の振りで投げられるように修正しろ。ルーキーには非常に難しいテーマかもしれない。そこに意識をとられると、変化球を思いきって投げられなくなったり、逆に得意のストレートまで悪影響を及ぼすケースも出てしまう。
だから得意な分野から逆にアプローチして、苦手な分野の修正をさせる。
真っ直ぐを八分の力、テンポで投げることを覚えさせる。
「お前の真っ直ぐは十二分に威力があるんだから、もっと楽に放れ」
こうアドバイスすることで、ゆったりとしたリズムでストレートを扱えるようになれば、変化球との力感の差も自然と埋まってくるはずだ。
「もし、澤村が八分の力感で投げても、真っ直ぐの威力は落ちないですよ。というか、むしろそれぐらいの力感の方がボールの切れも出るはずだし、投げ急がなくもなるはずです」
肩の開きが早く、ボールの出どころが見易いという点の解消にもつながるというわけだ。
ダメ、ダメではなくいい点を伸ばすというルーキー育成法は、日本ハムの斎藤佑樹投手に対する吉井理人投手コーチの指導も同じように見える。