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立浪和義の例にみる新人育成の極意。
澤村拓一や斎藤佑樹をどう指導する?
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byKazuhito Yamada
posted2011/02/21 10:30
1988年シーズンの試合前練習。この年、ルーキーイヤーだった立浪は開幕戦からスタメンとなり、オールスターゲームにも出場。中日のリーグ優勝にも貢献し、日本シリーズでは全試合先発出場を果たしている。新人王を獲得し、高卒新人としては初のゴールデン・グラブ賞も受賞
それは1987年の秋のことだった。
「マサ、お前はいじらんでいいぞ」
声の主は第1次政権で中日の指揮を執っていた星野仙一監督(現楽天監督)だ。そして「マサ」と名指しされたのは、当時の正岡真二1軍内野守備コーチだった。
東京で行われたドラフト会議で、星野監督は南海と競合の末、くじ引きでPL学園高校の立浪和義内野手の交渉権を手にしていた。そして秋季キャンプ中の浜松に戻ってきて、宿舎のホテルで報道陣に囲まれ、立浪への期待をぶち上げた直後のことだった。
そこを通りかかった正岡コーチに向かっていった言葉がこれだった。
要は立浪の守備は一級品で、守備コーチが手を付ける必要はない。それを報道陣の前で公言したということだった。
「高卒のルーキーが、即、プロで通じるんですか? まったくいじらなくていいなんて、いくらなんでも信じられない」
直後にこう質問した相手は故島野育夫ヘッドコーチだった。
「ビデオで見ただけだからワシはまだ分からんが、基本に忠実な守備をしているという印象だね。ただ、プロの世界は少し崩すことも必要かもしれない」
「いいところを伸ばすことで、ダメなところもカバーはできる」
例えば三遊間のゴロに体を無理に正面に入れようとすることもそうだ、という。高校野球ならそれでも間に合うが、プロは打球が速い。体を入れずに、逆シングルで捕球する技術を学ばなければならない。そういう例を島野ヘッドは説明してくれた。
「ただ、監督がいじるなというのは、別の意味だと思うよ。立浪の一番いいところは、守備力だから、そこをヘタにいじっちゃダメということ。ダメ、ダメじゃなくて、いいところを伸ばすことで、ダメなところもカバーはできる。新人を育てるというのはそういうことなんだ」
こうしてキャンプから1軍入りを果たした立浪は、翌年の開幕戦に「2番・遊撃」で先発。ルーキーイヤーは打率2割2分3厘ながら、堅守を見込まれ110試合に出場、新人王とゴールデン・グラブ賞を獲得した。
同じ種類の話を、今年の巨人の宮崎キャンプで聞いた。
発言の主は川口和久投手総合コーチで、話題の主はドラフト1位の澤村拓一投手だった。