野球善哉BACK NUMBER
中田翔の激変ぶりをキャンプで検証。
ホームラン・アーチストへ覚醒か?
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNaoya Sanuki
posted2011/02/17 10:30
プロ3年目となった昨季の成績は、打率.233、22打点、9本塁打だった中田翔。一軍登録は2009年の22試合から65試合へと大幅に増えたが、期待されている活躍にはまだまだ遠い
もはや、活躍するしないの領域で彼を論じてはいけないのかもしれない。
右打席から放たれるその日本人離れした打球、練習に対する姿勢、取材の受け答え。どれをとっても、一流の風格が出てきた。
プロ4年目、日ハム・中田翔のことである。
これまでも、何度も中田のことは取り上げてきた。ただそれは、期待感に近いものがあったのも、また事実である。高校通算本塁打記録を塗り替えた男には、プロの舞台で、なんとかモノになって欲しいという願いが先行していた感があった。
しかし、その期待感が確信に変わりつつある。現場で得た様々な証言からも、彼の一挙手一投足にさえ一目置かれ始めているのが分かった。
ある番記者がこう話していた。
「とにかく練習する。球場から出てくるのはいつも最後だし、休日も休まない。発言も大人になりましたよね。すごいよ、今年の中田は。打球が、パワーが、違います」
中田翔と斎藤佑樹のプロ初対決は意外なまでに平静だった。
春季キャンプ第3クール初日。この日は、中田翔vs.斎藤佑樹の勝負が実現するとあって、メディアの注目を集めていた。'06年夏の甲子園の2回戦、優勝候補筆頭の大阪桐蔭高にあって、2年生にして4番を任され人気急上昇中だった中田。その中田を3三振に切ってとり甲子園から去らせた投手こそ、当時はまだ無名に近い存在の斎藤だった。いわば斎藤佑樹の未来を変えた試合で、かませ犬になったのが中田だったのだ。あの時、斎藤が中田に対して見せた投球術は、以後の彼のピッチングを本物にした。
そんな彼らが対戦するとなれば、マスコミが注目するのも、無理はない。だが、この対決には、メディアが騒ぐほどの熾烈な様相はなかった。紅白戦でもなければ、シート打撃でもない、フリーバッティングであいまみえた二人の対戦は、斎藤は「ストライクを投げようと思った」だけだったし、中田にしても、「斎藤さんが相手とか関係なく、自分がこれまで練習してきたことを、しっかり確認したかった」という程度のものだった。
ホームラン・アーチストとしての本領を斎藤に見せつけた。
結果は、報道されているように、中田が7発の本塁打を放った。
7本のうち5本がセンターから右方向へのものだった。斎藤がアウトローを中心に外角に投げていたとはいえ、それを力で無理矢理引っ張り込もうともしない。また、球に合わせての右方向への打球を特に意識している訳でもなく、自然と飛ばしているのだ。その見事な技術に、中田の凄まじい成長の証を見る思いがした。
往年の落合博満や広沢克実、近いところでいえば中村剛也(西武)が放つ、右投げ右打ちのホームラン・アーチスト特有の右方向にぐんぐん伸びていく打球が、今の中田の打棒から放たれるようになっていたのだ。
練習後のコメントでも中田は「風もあった」として自身の力だけの本塁打ではないと頬を緩ませることさえしなかった。だが実際は、打たれた斎藤にして「さすがはプロの選手。右方向へ大きいのを打つ」と感嘆させたほどの力強い打球だったのである。