プロ野球亭日乗BACK NUMBER
好青年なだけでは生きていけない!?
斎藤佑樹に必要なのは“悪の勇気”。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byMiki Fukano
posted2011/02/09 10:30
150kmの球速を記録し話題になったこともある斎藤だが、直球のアベレージは140km前後。スライダー、カーブ、チェンジアップなど変化球をどう生かすかが生命線になる
体格に劣るマルティネスはマウンド度胸でのし上がった。
マルティネスには“首狩り族”という異名がある。頭付近をめがけて平気で“ビーンボール”まがいの球を投げてくる。そうして打者を心理的に圧迫して、得意のチェンジアップ、スライダーで打ち取っていく。
「野球をやってなかったら、今ごろは故郷のヤシの木の下で昼寝でもしていたさ」
ドミニカ共和国の貧しい家庭に生まれ、普段はこんな風に語る男も、ひとたびマウンドに上がれば悪になれる。だからこそ公称180cm、実際はもっと小柄と言われる体でも、メジャーで超一流として成功したわけだ。
スライダーを生かすための厳しい内角と制球力が斎藤を生かす。
なぜこんなことを書いたのか?
あるプロ野球関係者と日本ハム・斎藤佑樹投手のプロでの成功の条件を話していたとき、こんな話を聞いたからだった。
「斎藤が成功するかどうかはシュートを覚えるかどうか。彼の一番いい球はスライダーだが、いまのままではそのスライダーもウイニングショットとしては使えない。あのスライダーを使える球にするためには、シュートを覚えて内角を厳しく突けるかどうかだろう」
確かにその通りだと思う。
だが、そこでもう一歩、踏み込んで考えたことがある。
それは斎藤がいかにマウンドで、悪の顔を持てるかということだった。
シュートを覚えて、内角を突くだけではない。場合によっては半端ではなく、懐の奥深くめがけて打者をのけぞらせる。その“悪の勇気”を持つことも必要なのだ。そして何より、まずはそれを実行できる技術を身につけられるかどうかだ。斎藤の試金石は、そこにあると思うからだった。
「ペドロの真骨頂はコントロール。真っ直ぐはもちろんだけど、切れのある変化球を自在にコースに投げ分けられる。その能力の高さが彼の一番の持ち味だ」
これは松井のマルティネス評だった。それはシアトル・マリナーズのイチロー外野手も口を揃えて話している。
逆に言えばそれだけボールをコントロールできる能力が高いからこそ、首狩りまがいの危険なボールも平気で投げられるということでもある。