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「明日、何番でいく?」日本ハム・松本剛が叱られた新庄剛志監督のDM…申し子が語る“新庄野球の真髄”「できないと思うことは結構ある。でも…」
text by

酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph bySANKEI SHIMBUN
posted2025/04/19 11:12

ホーム最終戦セレモニーで笑顔をみせる日本ハム選手会長の松本剛と新庄剛志監督
いったい、新庄は30歳近く離れた若い選手たちにどんな魔法をかけているのだろうか。
松本剛はその道のりの当事者であり、指揮官の素顔をだれよりも身近で見てきたひとりである。11年のドラフト2位で入団後、17年に初めて規定打席に達した。だが、その後は低迷し、22年に新監督に就いた新庄によって引き上げられていた。その年は打率.347で首位打者を獲得し、「新庄野球」を体現してきた申し子である。
松本剛はまず新庄が目指す野球のカラーをこう説明した。
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「どうやったら1点を取れるか、どうやったら1点を防げるか。その極論を考えておられる方だと思います。『それはできないでしょう』と思うことは結構あります。でも、それがハマったときに勢いがめちゃくちゃ出る。それに、なにもしなくても相手が勝手に警戒している状態がつづくんです。新庄さんが監督だと相手は守りづらいと思います」
そして、松本剛はつづけた。
「今日の試合でもそうですけど……」
策士としての新庄の顔
そうなのだ。私は期せずして、策士としての新庄の顔を見ることになった。
松本剛に話を訊いたのは25年2月16日、沖縄県名護市で行う春季キャンプ中である。
ゴールデンイーグルスとの練習試合を戦ったこの日、同点の7回にこんなシーンがあった。2死一、三塁で水谷瞬が打席に入っていた。すると、一塁走者の松本剛がスタートを切って一、二塁間で囮になるような格好で挟まれた。内野陣が挟殺プレーに気を取られた間隙を突いて、三塁走者の上川畑大悟がホームスチールに成功。鮮やかな足攻めで勝ち越し点を奪ったのである。
2月の実戦は選手個々の状態を上げることがおもな目的であり、普通はまだ細かい戦術にはこだわらない。だが、新庄は違う。同じリーグの球団が相手だったためか、本番を見据えて小気味よく機先を制したのである。夏の始まりを思わせる陽光が射し込むなか、一塁ベンチ横の椅子に座って戦況を見つめる新庄の表情は黒い帽子と黒いマスクでよく見えなかった。だが、一糸乱れずに動くナインの姿が、新庄の勝負師としてのしたたかさを物語っていた。
新庄は現役時代に特殊メイクの被り物で登場するなど、球界随一のエンターテイナーとして世間の耳目を集めてきたが、その道化に騙されてはいけない。プレーボールの声を聞くや、その仮面を自ら剥ぎ取り、本性をむき出しにする。
24年秋、CS進出への勢いをつけたのもやはり、新庄の采配だった。
