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「いま週7日働いてる」慶應大卒・元ラグビー日本代表はなぜ“人力車”を?「浅草に来た理由は…インバウンド需要だけじゃない」アスリート意外な転身
text by

谷川良介Ryosuke Tanikawa
photograph byYuki Suenaga
posted2025/04/10 11:03

元ラグビー日本代表の児玉さん。朱塗りも鮮やかな浅草寺の東門「二天門」前で
「日本人に声をかけることは少ない」理由
人力車の運転に特別な免許は必要ない。しかし、浅草の街中には車夫に向けた道路標識があるように走行可能なエリアや声掛けOKの場所が定められるなど細かいルールは多い。実車できるようになるまでには、まず基本操作や交通ルールを頭に叩き込み、マナーを身につけたうえで、親方を乗せて何度も実地訓練を積む。自由な社風とはいえ、危険を伴う仕事でもあるため研修は厳しかったという。交渉や乗車時の会話にもある程度のマニュアルが用意されているが、内容やアプローチは個々に委ねられており、高いコミュニケーション力が求められる仕事なのだ。
今年3月、児玉は休みなしで週7日も人力車を走らせていた。予約制を取っているが、業界大手とは異なり、ほとんどが街で声をかけるところからスタートする。
早い時は朝8時に車庫に出向き人力車を引っ張り出す。日が暮れる頃までに乗せるお客さんは6~7組ほど。観光客が多い日はもっと増える。乗車時間も20分から1時間とさまざまで、料金や要望に応じてルートを決定していく。英語が話せる児玉はあえて「日本人に声をかけることは少ない」という。外国人観光客をメインターゲットとするため、仲見世通りを挟んで東側のエリアを走ることが多いそうだ。
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「エンタメ要素が強い西側も魅力があるのですが、ビートたけしとか落語家の話をされても海外の方はピンとこないですよね。スカイツリーが見える場所や雷門では、写真撮影を頼まれることが多いのでカメラ技術が上がりました(笑)」
“300kg”の人力車を…「夏はがっつり休む」
軽快に日常を教えてくれる児玉だが、滴る汗の量が重労働を物語る。人力車1台の重さは100kg以上と言われ、3人乗りの場合はさらに重く、1人50kgと仮定しても250kg~300kgほど。ベテラン車夫や女性も活躍する業界だとはいえ、決して簡単な仕事ではない。
「でも、体力に自信はありますし、何より僕は“走ること”と“倒れないこと”が本業でしたから。ただ、夏場はどうしても効率が下がってしまうので、今の時期は稼ぎどきなんです。猛暑のなかで毎日やっていたら体がもたない。だから夏はがっつり休みます」
一日の業務を終えると体重が減っている日も珍しくない。節制していた現役時代にくらべて食べる量はむしろ増えた。それでも、腹掛けの上からでもわかる鍛え抜かれた胸板や脚は引き締まっていて、座席から眺める背中は他の車夫と比べても頼もしい。
そんな児玉が、“消耗した”と思い出すエピソードがある。