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「いま週7日働いてる」慶應大卒・元ラグビー日本代表はなぜ“人力車”を?「浅草に来た理由は…インバウンド需要だけじゃない」アスリート意外な転身
posted2025/04/10 11:03

元ラグビー日本代表の児玉さん。朱塗りも鮮やかな浅草寺の東門「二天門」前で
text by

谷川良介Ryosuke Tanikawa
photograph by
Yuki Suenaga
浅草寺の本堂の右手に東門として創建された二天門の前は、浅草の街を巡る人力車が立ち寄る定番ルートの一つになっている。鮮やかな朱塗りで、国の重要文化財に指定される小さな門は、観光客が向けるスマートフォンの画面に収まりやすいのだろう。
「ここは第二次世界大戦の戦火にも焼け残ったといわれる貴重な建築物です。いまもすぐ脇に消防署があるように、ずっと守られているんです」
元ラグビー日本代表の児玉健太郎(33歳)は現在、人力車の車夫として働いている。昨年引退してまもなくジャージを“腹掛け”に、スパイクを“足袋”に履き替えた。乗車したお客さんへの“浅草解説”もすっかり板についてきたようだ。
給料は完全歩合制
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インバウンド需要が絶大ないま、浅草は外国人観光客が溢れかえっている。取材した日は平日の昼間にもかかわらず、飲食店も宿泊施設も人力車業界もコロナ禍の停滞が嘘のように活気を取り戻していた。
児玉が車夫として所属する「松風」は、浅草に数多くある同業の中でも実にフレキシブルな働き方を推奨している。従業員は20名程度と少数精鋭だが、本業と掛け持ちする者や現役の格闘家が在籍するなど多彩な顔ぶれが揃う。それぞれのライフスタイルに応じて出勤日時を選び、働きたい時だけ働く。給料も完全歩合制で、収益単価(例・2名乗車/1時間1万6500円~)の30%程度を会社に収める契約だ。
縛られることが苦手だと話す児玉にとっては、居心地がよかった。
「いくつかの会社を回ろうと思っていましたが、『松風』の親方、女将さんと面接してすぐここで働きたいと思いました。この世界は職人気質の人が多いのだろうと思っていましたが、お二人の物腰がすごく柔らかくて。僕にとっては、誰と働くかも重要な基準でした。うちで働くひとも、街ですれ違う他社の車夫の方々も、この業界には面白い方がいっぱいいますよ」