フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
「天才少女」と呼ばれたアリサ・リュウの“劇的復活”…16歳でフィギュア引退後、コーチにかかってきた1本の電話「今のアリサは偽りない彼女自身」
posted2025/04/04 11:03

2年半のブランクを経て、世界選手権で劇的な優勝を果たしたアリサ・リュウ(米国)
text by

田村明子Akiko Tamura
photograph by
Getty Images
ボストン世界選手権の3日目、3月28日。女子フリーの最終滑走だったアリサ・リュウが演技を終えると、TDガーデンの2万人の観客は総立ちとなった。ボストン出身のシンガー、ドナ・サマーのメロディにのって7本の3回転ジャンプをクリーンに着氷。ほぼ完ぺきなフリーを滑り切ると、信じられないという表情を浮かべ、「何これ!?」と何度か叫んだ。
暫定1位だった坂本花織を振り切り、初優勝が決まると、リンク際に設置されていた席で見守っていた坂本と抱き合った。涙を流しながらリュウを祝福し、きつくハグした坂本を「素晴らしいスポーツマン精神」とアメリカ中のメディアが絶賛。4度目の世界タイトルはならなかったが、世界中で坂本選手のファンが増えたことは間違いない。
2度目の挑戦となった千葉百音が銅メダルを獲得、樋口新葉もSP、フリーと大きなミスなくまとめて総合6位と健闘。トップ6位は日本と米国が独占した。
16歳での引退は「正しかったと思うんです」
ADVERTISEMENT
SP後の会見で、リュウは一度引退宣言をした3年前の自分にどんな言葉をかけたいかと聞かれて、こう答えた。
「今こそ16歳の当時の自分の判断は正しかった、と思うんです。あの時退いていなければ、今ここに座ってはいなかったでしょう。だから自分の心の声に従えば、最後はすべてうまくいく。『ガール、自分を信じて他の人の言うことなど聞いてはダメ』と言うでしょう。私はずっとマイペースでしたけど、周りの人たちには自分の決断を反対されてきました。でも(こういう結果となり)私は直観に長けてるのかも」
復帰前のリュウが経てきた思いを理解すると、この彼女の言葉が心に響く。
「天才少女」と注目されたリュウが経験した変化
リュウはミシェル・クワンの大ファンだったという父親に連れられ、5歳でスケートを始めた。2019年1月に13歳で史上最年少の全米チャンピオンになり、天才少女と注目される。2019年夏のジュニアGPアメリカ大会で、世界で初めて1つのプログラムで4ルッツと3アクセルを成功させ、唯一ロシア勢と対等に戦える選手として期待された。